2005年度 後期第14,15回 細胞生物学セミナー
日時:11月22日(火) 16:30~
場所:総合研究棟6F クリエーションルーム
Functional Genomic Analysis
of the AUXIN RESPONSE FACTOR Gene Family Members in Arabidopsis
thaliana : Unique and Overlapping Functions of ARF7 and ARF19
Okushima Y., Overvoorde J. P., Arima K., Alonso M. J.,
Chan A., Chang C., Ecker R. J, Hughes B., Lui A., Nguyen D.,
Onodera C., Quach H., Smith A., Yu G.
and Theologis A.
The Plant Cell 17:444-463 (2005)
インドール-3-酢酸(IAA)に代表されるオーキシンは植物の生長や発生のさまざまな局面に関わる非常に重要な植物ホルモンである。細胞レベルでオーキシンは細胞の分裂・伸長・分化を制御しており、組織・器官レベルにおいては器官の伸長生長のみならず、胚発生におけるパターン形成、維管束の分化、側根形成の促進、頂芽優勢の維持などにも関わる。さらに、光、重力および水分等に対して根や胚軸、花茎が示す屈性反応にもオーキシンが深く関与することが明らかにされている。オーキシンに関する研究は生合成、受容体、シグナル伝達、形態形成、屈性反応、他の植物ホルモンとのクロストークなど多岐にわたっているが、その中でも本研究はオーキシン応答シグナル伝達に深く関与するAUXIN
RESPONSE FACTOR(ARF)遺伝子ファミリーに着目している。これまで、オーキシンのシグナル伝達の機構を解明するために、主に2つの研究アプローチがとられてきた。一つはオーキシンによって発現が制御される遺伝子やオーキシンと結合するタンパク質を直接同定する分子生物学的・生化学的アプローチであり、もう一つはシロイヌナズナに代表されるモデル植物を用いてオーキシン応答に異常を示す突然変異体を単離・解析し、それらの原因遺伝子を同定するといった分子遺伝学的アプローチである。これら二つのアプローチからオーキシンシグナル伝達に関する数多くの知見が報告されてきた。近年、シロイヌナズナの全ゲノム配列の解読や変異体を用いた研究の進展から、これらの2つのアプローチを結びつける研究が相次いで報告されるようになっている。本研究もこの例の一つと言える。ARFはそれ自身もオーキシン早期応答遺伝子であるAux-IAAタンパク質(IAAタンパク質)とともにオーキシン応答遺伝子の転写活性および抑制のどちらにも関わり、その遺伝子ファミリーはシロイヌナズナのゲノムに23個存在している。ARFは分子量12万程度のタンパク質であり、N末端側にオーキシン早期応答遺伝子のプロモーター領域に存在するオーキシン応答シス配列(AuxRE;TGTCTC配列)と結合するためのDNA結合ドメインをもち、C末端側にはその結合を安定させるためのホモダイマーやヘテロダイマー、あるいはIAAタンパク質とのヘテロダイマーを形成するためのドメインが保存されている。そしてそれらの中間領域は各々のARFによって異なり、この中間領域の多様性によってARFの転写因子としての性質すなわち、転写活性化因子であるか転写抑制因子なのかを決定しているようだ。しかしながら、ARF遺伝子ファミリーの生物学的な機能に対する理解は未だに乏しい。そこで、本研究では23個のARFのうち18個に関してT-DNA挿入ラインを確立し、それぞれのARF欠損変異体を作出した。その結果、単一変異体では、arf3/ett,arf5/mp,arf7/nph変異体を除くほとんどの植物体は正常な表現型が観察された。続いて、筆者らはいくつかの二重変異体を作出し、その結果、arf7 arf19二重変異体はそれぞれの単一変異体では観られなかったオーキシン変異に強く関連した表現型を示しており、胚軸・根のどちらにおいても異常な重力屈性を示し、側根形成においても顕著な異常が観られた。DNAマイクロアレイ法を用いた包括的な遺伝子発現分析では、オーキシンにより誘導される遺伝子発現がarf7単一変異体およびarf7
arf19二重変異体において明らかに損なわれており、例えばLATERAL ORGAN
BOUNDARIESドメインタンパクやAUXIN-REGULATED GENE INVOLVED IN ORGAN SIZEをコードするいくつかの遺伝子発現は二重変異体ではっきりと欠如していた。これらは外生オーキシンを添加して生育した芽生えにおいても同様の傾向が観られた。本研究で得られた結果は、ARF7とARF19のそれぞれ特有あるいは重複する機能のどちらにおいてもオーキシンを介する植物体の発達において必要不可欠な役割を担っていることを強く示唆するものである。 興味を持たれた方はぜひご参加ください。来聴を歓迎します。 諸橋恵太