2007年度  前期第1回  細胞生物学セミナー
日時 : 4月24日(火) 17:00〜
場所 : 総合研究棟6階 クリエーションルーム
NAC transcription factors, NST1 and NST3, are key regulators of the formation of secondary walls in woody tissues of Arabidopsis
Mitsuda, N., Iwase, A., Yamamoto, H., Yoshida, M., Seki, M.,
Shinozaki, K. and Ohme-Takagi, M
 (2007)
Plant Cell,
19, 270-280
 
NAC転写因子であるNST1とNST3はシロイヌナズナの木質組織における二次壁形成の鍵となる制御因子である。
植物の進化の歴史のなかで、木質組織形成のメカニズムの獲得は維管束植物の繁栄を成功させるためには重要なイベントであった。木質はリグニンとセルロースを主成分にした二次木部の経時的な付加によって形成される。これまでにリグニンとセルロースの生合成に関与する多くの遺伝子の特徴付けはなされているが、木質組織における二次壁形成を調節する因子は良く分かっていない。以前の研究で、莢や葯の内被における二次壁形成を制御する植物特異的な転写因子として、NAC転写因子である、NAC SECONDARY WALL FACTOR1 (NST1)とNST2が同定された。また近年の分子遺伝学的な解析から木質形成を制御する遺伝子は木本植物に特異的なものではなく、さらにモデル植物であるシロイヌナズナを用いることで形成層を介した二次成長の解析が可能であることが示されている。そこで本研究では、シロイヌナズナを用いて木質組織における二次壁形成の制御に関与する因子の同定を行った。
 筆者らは以前に報告された
NST1とNST1のホモログであるNST3に着目し、そのプロモーター活性について調べた。その結果、花茎の維管束間繊維, 導管に分化している細胞, 胚軸の二次木部においてNST1とNST3の両方の活性が見られた。またNST1, NST3の異所的な発現は異所的な二次壁肥厚を誘導した。しかし、NST1, NST3 それぞれのT-DNA タグラインは木部において明白な表現型の異常を示さなかった。そこでNST1とNST3がそれぞれに木部組織の二次壁形成を制御しているかどうか調べるために、私たちはNST1とNST3のホモ接合体ダブルノックアウトライン (nst1-1 nst3-1) を作成した。 nst1-1 nst3-1 は維管束間繊維の領域において、青い自家蛍光によって示されるリグニン化物質を完全に失っており (図1)、胚軸の二次木部においてもリグニン化物質は消失していた。これらの結果からNST1とNST3はシロイヌナズナにおいて維管束間繊維と二次木部の二次壁形成を重複して制御していることが示された。
 次に
NST1とNST3は二次壁の生合成関与する遺伝子の発現を調節するか否かを調べた。その結果、 nst1-1 nst3-1 においてリグニンとセルロースの生合成に関与するいくつかの遺伝子の転写レベルが抑制されていることがわかった。またPro NST1:GUSPro NST3:GUSレポーター遺伝子によって発現するGUS活性が二次壁が全く存在しなくとも nst1-1 nst3-1 の維管束間領域において検出されたことから、NST1とNST3は木部組織に分化すると運命づけられた細胞の形成には影響を与えずに、重複して二次壁肥厚を制御していることが明らかとなった。また筆者らは本研究においてNST1とNST3のキメラリプレッサーを用いた遺伝学的な操作によって茎の二次壁形成を抑制することに成功した。
興味をもたれた方はお気軽にご来聴ください。学部生の来聴も歓迎します。 玉置大介