2007年度前期  第5回  細胞生物学セミナー

日時:5月29日(火)17:00~

場所: 総合研究棟6階  クリエーションルーム

 

Marking cell lineage in living tissues

 

Kurup, S., Runions, J., K ö hler, U., Laplaze, L., Hodge, S., Haseloff, J.

 Plant J.200542, 444-453

 

生きている植物組織における細胞系譜のマーキング

 

 多細胞生物は、細胞分裂や細胞分化を通して発達する。モデル植物であるシロイヌナズナでは、胚発生の間における細胞分裂は、非常に規則的であり、これは細胞系譜やその後の運命に密接な関係がある。しかし、成体の植物においては、細胞分裂はしばしば不規則で、また、定常的な位置的のシグナルは、隣接する細胞の間で交換されることが明らかになっている。植物体の発達について理解するためには、細胞系譜についての情報や隣接する細胞の影響を理解することの両方が重要である。

 植物の細胞系譜のマーキングには多様な手法が用いられてきたが、本研究では、生きている組織において高い解像度で細胞系譜を可視化するための新しいシステムの構築を目指した。新しいシステムの構築には、ヒートショックで誘導されるトランスポゾン活性と、それにより発現が誘導される核局在型黄色蛍光タンパク(YFP)レポーター遺伝子を用いた。この新しいシステムは次のようなものである。35Sプロモーターとヒストン2BYFPレポーターの間にDSエレメントを入れることによって通常はレポーター遺伝子の転写が行われない。コンフォーカルレーザー顕微鏡のレーザーを利用して、標的細胞にヒートショックを与えた。これによって、ヒートショックプロモーターにつなげられたAc transposase遺伝子の発現にスイッチが入り、DSエレメントが切り出され、レポーター遺伝子が標的の細胞と、その細胞に由来する全ての細胞内で発現され、蛍光を発する。

このシステムによって生きている根の細胞の始原細胞からの細胞系譜を作成した。そして、頂端分裂組織(RAM)や側根原基(LRP)の由来を調べた。また、側根原基の発達における一次根の内鞘細胞の寄与の仕方が、細胞列の位置の違いによって異なることが示された。具体的には、側根原基を形成する大部分の細胞は、中心部に位置する細胞列の細胞に由来し、中心部から外れた細胞列の細胞は側根の基部の細胞のわずかな増殖に寄与するだけであることがわかった。このシステムを利用することによって、植物の形態形成における細胞分裂についての詳細な研究が発展することが見込まれる。

 

 

 

 

興味をもたれた方は是非ご来聴ください。 岡本 絵美