2007年度 第八回 細胞生物学セミナー
日時:6月26日(火) 17:00〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
 
Ethylene regulates Arabidopsis development via the modulation
of DELLA protein growth repressor function
 
Achard,P., Vriezen,W.H., Straeten,D.V.D., and Harberd,N.P. (2003)
Plant Cell. 15:2816–2825
 
エチレンは生長阻害因子DELLAタンパク質の調節を介してシロイヌナズナの発達を制御する
 
 植物ホルモンは応答のネットワークを通して植物の発達を調節する。エチレンとGAがともに植物の生長を制御することが明らかになって久しいが、それらの推定されているシグナル伝達経路が生長の調節においてどのように相互作用しているかは明らかにされていなかった。しかし最近の研究でオーキシンがDELLA機能の調節によって根の生長を促進していることが発見された (Fu and Harberd, 2003)。これらのことから、DELLAタンパク質が様々な植物ホルモンによる生長制御の鍵を握る可能性が考えられる。そこでDELLAファミリーがエチレンシグナル伝達経路に関係するか否かを調べた。
 DELLAタンパク質は、はじめジベレリン(GA)シグナル伝達要素として同定されたタンパク質ファミリーで、核局在性の生長抑制因子である。シロイヌナズナにおけるDELLAファミリーはGA-INSENSITIVE(GAI)、ga1-3のリプレッサー(RGA)、RGA-LIKE1( RGL1)、RGL2、RGL3から成る。GAはDELLAタンパク質を分解することで、DELLAタンパク質に媒介された生長抑制を解除する。すなわち、GAはDELLAタンパク質の効果に対抗することでGA応答経路を活性化し、生長を調節している。一方でエチレンシグナル伝達経路にはエチレン応答に対してネガティブに働く調節因子であるCTR1が関係する。エチレンが存在しない場合、エチレン受容体はCTR1を活性化し、そのためエチレン応答は抑制される。エチレンが存在する場合、エチレン受容体はCTR1を活性化しないため、CTR1に媒介されるエチレンシグナル伝達経路の抑制は緩和され、エチレン応答が起こる。エチレンもまた、CTR1タンパク質の活性に対抗するシグナル伝達経路により、エチレン応答を活性化している。
 まずDELLAタンパク質であるGAIおよびRGAの突然変異体をACC処理することで、エチレンがGAIおよびRGAの効果を介してシロイヌナズナの根の生長を阻害すること、すなわちエチレンがDELLA依存的な様式により根の生長を阻害することがわかった。またエチレンはDELLAタンパク質であるRGAの、GAの誘導による細胞核からの消失を遅延させた。またRGA消失についてエチレン応答経路のネガティブ調節因子であるCTR1の突然変異体においてもまた調べたところ消失は遅延され、エチレンのDELLAタンパク質に対する影響がCTR1に依存するエチレンシグナル伝達経路を介していることが確かめられた。黄化芽生えの胚軸においてエチレンにより促進されるアピカルフックの屈曲は、差動的な細胞分裂と細胞伸長によって生じ、この調節はオーキシンやエチレンのような複数の植物ホルモンにより調節されている。GAIおよびRGAの突然変異体を用いた実験によりDELLAタンパク質はフック形成を抑制することがわかった。さらにctr1およびDELLAの各種の突然変異体のGA、エチレン、オーキシンに対する応答を観察した。その結果GAはDELLAの効果に対抗してフックの維持を促進し、エチレンはGAのDELLAへの作用を介してフックを維持することがわかった。またオーキシンはDELLAタンパク質を介してフックを促進した。すなわちエチレン、オーキシン、GAはそれぞれDELLAタンパク質を介してアピカルフック構造に影響を与えた。
 以上のことからエチレン、オーキシン、そしてGAの応答はDELLA機能への影響に起因することが示唆された。すなわちDELLAタンパク質は植物ホルモンシグナル応答ネットワークにおける鍵になる集約的な役割を果たす可能性が示唆された。
 
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前田綾子