2007年度前期 第9回 細胞生物学セミナー

日時:73() 1700

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Apoplastic barriers to radial oxygen loss and solute penetration

: a chemical and functional comparison of the exodermis of two wetland species, Phragmites australis and Glyceria maxima

Soukup, A., Armstrong, W., Schreiber, L., Franke, R., Votrubová (2006)

New Phytologist 173 (2), 264–278

 

放射方向の酸素漏洩と溶質透過に対するアポプラストバリア

Phragmites australisGlyceria maxima2つの湿地帯種の

外皮における化学的・機能的比較

 

冠水土壌は、酸素不足と、有毒な還元型無機イオンと嫌気性細菌が有機物を分解したことから生じる化合物の蓄積という特徴を持つ。湿地帯植物はそれらの脅威を克服するために、非常に多くの方法で代謝的かつ構造的に適応している。

根の生長に伴う放射方向の酸素漏洩(ROL)と溶質透過の双方に対するバリア形成と、外皮発達との関連はこれまでいくつかの研究で調べられてきている。それらを受けて今回の研究は、外皮細胞壁内のスベリン沈着の傾向と組成,ROL,不定根における溶質透過性特性との関連をさらに検証するために行った。イネ科の単子葉湿地帯植物種である、G.maximaP.australisはいずれも根茎を発達させるが、分布特性や生長戦略は異なっており、前者は浅い冠水地域に表層的な根を張るのに対し、後者は浅くから深い冠水地域にまで分布する。茎から根茎システムを通じたガスの対流は、P.australisでは生じるが、G.maximaでは見つかっていない。

両種において、外皮の解剖学的な特徴、発達、スベリンの生化学的構成と、アポプラストのトレーサー(過ヨウ素酸を用いた)と酸素の透過を調べた。まず解剖学的な特徴を調べたところ、両方の種は外皮下にコルク化された細胞壁を持っていた。P.australisの下皮は、厚壁細胞層と重層的な外皮からなり、G.maximaでは二層の外皮が見られた。トレーサーおよび酸素の透過を調べたところ、根の基部に近づくにつれ、P. australis ではROLと過ヨウ素酸透過が実質的に停止したが、G. maximaでは過ヨウ素酸透過は完全には停止しなかった。深刻な酸素不足状態での栽培や、酸素が豊富に循環する条件での栽培は、G. maximaにおけるROLプロフィールの長軸方向のパターンに影響を及ぼしたが、P.australisでは変化が見られなかった。また、どちらからも外皮スベリン組成や含量における有意な変化は発見されなかった。また、どちらからも外皮スベリン組成や含量における有意な変化は発見されなかった。

この外皮バリア性能における種間差異は、下皮構造および,外皮細胞壁内におけるスベリン組成と分布の、量的かつ質的な違いの種間差異を反映することが示唆された。またこれらの種間差異から、バリアが物質毎に浸透性の差異を生じることが示唆された。しかし、浸透性に差異を生じさせるメカニズムは未だ明確ではない。現在のデータに基くと、下皮層におけるスベリン含量の総計値は、環境によっても変化しなかったことから、必ずしも細胞壁のバリア特性を反映するものではないことが示唆された。アポプラストバリアを通過するさまざまな溶質の輸送と通路を解明するために必要なデータを得るため、また記録された種間差異を説明するためには、スベリン沈着の総計値ではなく、外皮の細胞壁内におけるスベリン沈着の空間的配置について、さらに高い空間的な分解能で解析することが不可欠だと考えられる。

興味をもたれた方は、是非ご来聴下さい。  伊藤 祐子