2007年度 第十二回 細胞生物学セミナー
日時:10月2日(火) 17:00〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
 
AHK5 histidine kinase regulates root elongation through
an ETR1-dependent abscisic acid and ethylene signaling
pathway in Arabidopsis thaliana
 
Iwama,A., Yamashino,T., Tanaka,Y., Sakakibara,H., Kakimoto,T.,
 Sato,S., Kato,T., Tabata,S., Nagatani,A. and Mizuno,T. (2007)
Plant Cell Physiol. 48(2): 375–380
 
シロイヌナズナにおいてAHK5ヒスチジンキナーゼはETR1依存性の
アブシジン酸およびエチレンのシグナル伝達経路を通して根の伸長を制御する
 
 
 植物のシグナル伝達系において、シロイヌナズナのヒスチジル-アスパラチル(His-Asp)-リン酸リレー(あるいは二成分制御系)はシグナル伝達カスケードのパラダイムである。His-Asp-リン酸リレーの中心は、authentic histidine kinase 2(AHK2)、AHK3、そしてAHK4/CRE1(cytokinin response 1)などのサイトカイニンのセンサーあるいは受容体として働く、タンパク質ヒスチジンキナーゼ(HKs)の組み合わせである。シロイヌナズナのゲノムはヒスチジンキナーゼの小さなファミリーをコードしている。これらのヒスチジンキナーゼのうちETR1をはじめとしたいくつかはエチレン受容体としても働き、一方でほかのAHK2、AHK3、AHK4/CRE1は前述したようにサイトカイニンのセンサーあるいは受容体として働く。これらのなかでもっとも特徴がはっきりしていないものがAHK5であった。AHK5はCKI2(cytokinin independent 1)としても知られているがその生理学的な役割についてはまだあまり明らかになっていない。そこで私たちは3つの独立したahk5変異体である、ahk5-1、ahk5-2、cki2-1を特徴づけ、それらが共通の表現型を持つことを示した。
 まず最初にAHK5が実際にヒスチジンキナーゼとして働くことを確かめた。大腸菌に導入されたAHK5の遺伝子産物は確かにヒスチジンキナーゼ活性を持っていた。またAHK5は根において優勢に発現した。植物ホルモンを与えたときahk5変異体がどのような表現型をもつかを根について調べた。ahk5変異体において根長はサイトカイニンとオーキシンによっては影響を受けず、ABAとエチレンに対して高感受性になることがわかった。AHK5は根の伸長阻害を導くホルモン、すなわちABAとエチレン応答に関与していると考えられる。次に三重反応におけるエチレン介在性シグナル伝達経路にAHK5が組み込まれているかどうかを調べた。三重反応の基本となる胚軸の長さを定量した結果、ahk5-1変異体は野生型と比べて違いはなかった。しかし根についてahk5-1はACCに対して高感受性であったため、根においてはAHK5がエチレンのシグナル伝達経路に関与するという可能性が示唆された。またBeaudoin et al.(2000) と Ghassemian et al. (2000)らの2つのグループが根の伸長阻害におけるABAとエチレンの相互作用に関するモデルを発表している。このモデルにおいてABAとエチレンのシグナル伝達経路を統合するのはETR1を含むエチレン受容体である。そこでこのモデルを検証するとともにAHK5の機能を明らかにするために、私たちはエチレン受容体の強力な阻害剤であるAgNO3条件下でのABAに対する高感受性のcki2-1の表現型を調べた。その結果、AgNO3は野生型においてABAの効果を部分的に打ち消した。さらにはcki2-1の表現型を有意に打ち消した。これらの結果はエチレン受容体を通して根の伸長を阻害する、ABAとエチレンのシグナル伝達経路においてAHK5がネガティブな調節因子として働くことを示唆している。
 
ご興味をお持ちの方はお気軽にご来聴ください
前田 綾子