2007年度 後期第5回 細胞生物学セミナー

日時:1030日(火)1700〜 

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

The promotion of gravitropism in Arabidopsis roots upon actin disruption is coupled with the extended alkalinization of the columella cytoplasm and a persistent lateral auxin gradient

Hou, G., Kramer, L., V., Wang, Y., Chen, R., Perbal, G., Gilroy, S., and Blancaflor, B., E. (2004)

Plant J.,39,113-125

アクチンを破壊したシロイヌナズナの根に見られる重力屈性の促進は、

コルメラ細胞の細胞質の拡張したアルカリ化と持続的な側面のオーキシン勾配が共役する

 

 植物体を重力方向に対して水平に置いたとき、地上部は上方向に、根は下方向に屈曲する。これは重力屈性として知られており、重力屈性にアクチンが関与することが報告されているが、詳細な役割は不確かなままである。 

  本実験では、アクチン脱重合剤であるLatrunculin BLatB)で処理したシロイヌナズナの根を用いて、クリノスタット上での根の屈性の発達を解析した。芽生えを30分間90°回転させた後、6時間クリノスタット処理を行った。その結果、コントロールの根は屈性の平均角度が水平方向から24±2.87°であったのに対し、100 nMLatBで処理した根の平均角度は107.4±3.9°にまで達していた。

    100 nMLatBの濃度で、より強い重力屈性応答が観察できたことから、コンフォーカルレーザー顕微鏡を用いて根の様々な領域でアクチンの観察を行った。伸長領域と根冠で、微細なアクチンネットワークは破壊されていたが、太いアクチンの束は残っていた。コルメラ領域では散在性の弱い蛍光シグナルのみ認められた。

 コルメラ細胞での微細なアクチンフィラメントのネットワークが破壊されたことにより、結果的にアミロプラストの沈降の動きが変化し、重力屈性が強められた可能性があることから、100nMLatBで処理したシロイヌナズナの根のアミロプラストの動態と沈降を解析した。根を135°回転させたとき、LatB処理した根ではコントロールに比べ、有意にアミロプラストの沈降が促進されたことから、根を回転させた場合にはアクチンがアミロプラストの沈降を妨害している可能性が示された。

     次に、LatBにより誘導される根の屈性応答の促進に、オーキシン勾配の変化が関係するかどうかを調べた。屈性時の根でのオーキシン勾配の検出には、オーキシン応答レポーターDR5:β-glucuronidase (DR5:GUS)を利用した。その結果、クリノスタット上で3〜5時間処理した時に、LatB処理した根では屈曲側に染色が見られた。この結果から、LatB処理によりクリノスタット上で屈性が強められた根では、側面での持続的なオーキシン勾配が起こっていることが示された。

   さらに、重力認知の初期のイベントに、コルメラ細胞における細胞質pHの一過的な増加が関係していることが知られていることから、LatB処理がこの細胞質pHの一過的な増加に影響しするか否かを調べた。100nMLatBで処理した根ではpHの増加は阻害されることは無く、pHの高い状態が一過的ではなく、30分以上続いた。また、20μMのニトロフェニルエチル(NPE)を用いて、細胞質pHの一過的な増加を阻害した場合、クリノスタット上で観察された屈性の促進やDR5::GUSの非対称な染色を示す根の数が減少した。

 これらの結果から、アクチンは初期のpHのシグナルを調節することで根の重力屈性に関与していることが示された。また、コルメラ細胞でのpH変化が、回転後の新たな垂直方向への生長の再確立のためのオーキシンの極性輸送システムに関与していることが示唆された。

興味を持たれた方は、ぜひご来聴ください。

安藤名央子