2007年度後期  第17回  細胞生物学セミナー

日時:1120日 (火) 1630

場所:総合研究棟6階  クリエーションルーム

Identification of two protein kinases required for abscisic acid regulation of seed germination, root growth,and gene expression in Arabidopsis2007

Fujii, H., Verslues, P., Zhu, J.

Plant Cell, 19 , 485–494

シロイヌナズナにおける種子の発芽や根の生長、遺伝子発現のアブシジン酸調節(制御)

必要とされる2つのタンパク質リン酸化酵素の同定

 アブシジン酸(ABA)は、維管束植物に普遍的に存在する植物ホルモンであり、主要な器官や組織のすべて、根の根冠から頂芽まで存在している。ABAは、種子の発芽や休眠の開始の維持、水ストレスへの応答に主要な制御物質として働くことが知られている。シロイヌナズナにおける、ABA応答のスクリーニングにより、優性のaba insensitive(abi1)abi2、劣性のabi3abi4abi5のようなABAに感受性のない突然変異体が同定されている。abi1abi2突然変異体は、種子の発芽や芽生えの生長などの抑制や、気孔の閉鎖の促進を含む多くのABA応答能を失うにもかかわらず、abi3abi4abi5 突然変異体では、種子の発芽と初期芽生えの発生でABA非感受性を示すだけである。ABI3ABI4ABI5は、植物の組織での発現は低く、主に種子で発現する転写因子である。ABI1ABI2は、ABA応答を負に制御するタンパク質脱リン酸化酵素であることが分かっており、ABA応答を正に制御するようなタンパク質リン酸化酵素の存在を示唆する。

ABAの作用には、リン酸化が重要であると考えられている。このことはABA応答配列(ABRE)結合因子(ABF)の活性化の解析により示された。ABFABA応答に関与する塩基性ロイシンジッパー型の転写因子(ZIP)である。ABFにはABF1ABF2(AREB1)ABF3ABF4(AREB2)ABF5がある。これらはABREに結合し、ABAにより発現する遺伝子のプロモーターにシス配列として保存されており、転写を活性化する。これらのABA応答性遺伝子は、推定上の保護タンパク質、浸透圧調節物質の合成のための酵素、転写因子をコードしている。ABAの作用には、リン酸化が非常に重要であると以前から示唆されているのにもかかわらず、種子の発芽や芽生えの生長のABAによる制御に必要なタンパク質リン酸化酵素(PK)は明らかにされていない。

また、気孔開口の制御には、タンパク質キナーゼのSnRKファミリーのひとつであるSnRK2.6SNF1関連タンパク質キナーゼ2.6/OST1)が関与しており、これは、ABAシグナリングの正の制御因子であると同定されている。snrk2.6突然変異体は、気孔閉鎖の制御を通じて葉の水分損失に影響するが、種子の休眠や発芽には影響しないことが報告されている。この結果から、ABAシグナルを仲介するプロセスにおいて、いくつかの重複性のリン酸化酵素が関与することが示唆されている。

2種のタンパク質リン酸化酵素であるSNF1関連タンパク質リン酸化酵素SnRK2.2およびSnRK2.3は、SnRK2.6にもっとも密接に関連がある。そこで、本研究では、SnRK2.2SnRK2.3に着目した。SnRK2.2SnRK2.3は、シロイヌナズナにおける種子の発芽、休眠、芽生えの生長へのABAの働きを制御すると考えられている。私たちはsnrk2.2もしくはsnrk2.3のシングルミュータント、およびsnrk2.2snrk2.3のダブルミュータントを単離した。snrk2.2 snrk2.3のダブルミュータントや、snrk2.2もしくはsnrk2.3のいずれかのシングルミュータントは、種子の発芽や休眠、根の生長抑制、ABAによりひき起こされるプロリン蓄積において、明らかにABA非感受性の表現型を示した。snrk2.2snrk2.3のダブルミュータントにおいては、アブシジン酸応答エレメント結合因子(ABF)由来のペプチドをリン酸化する活性を持つ42kDリン酸化酵素の活性が大きく減少していた。snrk2.2snrk2.3ダブルミュータントでは、ABREを含むプロモーターを持ついくつかの遺伝子の、ABAにより誘導される発現が減少していた。このことから、ABAのシグナリングにおけるSnRK2.2SnRK2.2の作用機構においては、ABFのリン酸化を通じたABREによる遺伝子発現の活性化を含むことが示唆される。以上の結果は、SnRK2.2やSnRK2.3が、種子の発芽や芽生えの生長の間ABAのシグナルを仲介する、鍵となるタンパク質リン酸化酵素であることを示唆する。また、2つのタンパク質リン酸化酵素の効果は、少なくとも一部はABFのリン酸化やABA応答遺伝子の調節を介したものであることが示唆される。

興味を持たれた方は、ぜひご来聴ください。  岡本 絵美