2007年度後期 第9回 細胞生物学セミナー

日時:1127日(火)1700

場所:総合研究等6階 クリエーションルーム

Arabidopsis H-PPase AVP1 regulates auxin-mediated organ development

Li, Jisheng, Yang, H., Peer,W.A., Richter, G., Titapiwantakun, B., Undurraga, S.,

Khodakovskaya, M., Richards, E. L., Krizak, B., Murphy, A. S., Gilroy, S., Gaxiola,R.(2005)

Science,310,121-125

シロイヌナズナのH-PPasa(ピロフォスファターゼ) AVP1

オーキシンが介する器官の発達を制御する

 

植物ホルモンであるオーキシン(主にindole acetic acid(IAA) )はあらゆる器官の形成においての基本的役割を担う。オーキシンの勾配が極性の発達に必須であることが知られている。化学浸透圧モデルにおいて、極性IAAのシンプラストへの取り込みや流出は細胞膜上のHの勾配によって調節される。また酸性のアポプラストの中ではプロトン化された親油性のIAA分子種が増加し細胞内への浸透が促進され、細胞内のIAAはPINタンパク質によりシンプラストに排出される。そのためシンプラストとアポプラストのpHを決める輸送体は、オーキシンの極輸送において重大な役割を担っていると考えられる。植物は3種類の膜Hポンプを用いてpH勾配を調節している。H‐PPase(ピロフォスファターゼ)は一つのサブユニットタンパク質からなり、ATPの代わりにピロリン酸(PPi)を利用してプロトン勾配を内膜の区画に作り出す。シロイヌナズナゲノムのタイプ氓フH-PPaseであるAVP1とタイプのAVP2/AVPL1を持つ。本研究ではAVP1に着目しオーキシン極性輸送についての研究を行った。

AVP1は液胞のH-ポンプであるとされ、ホルモンの輸送もしくは発生の制御に関与するという報告は今までになされていなかった。しかし、AVP1を過剰発現させた植物(AVP1OX)のロゼット葉、茎、根では典型的なホルモンの異常による形態形成異変が観察された。さらに器官発達におけるAVP1の役割を調べるため機能損失変異体avp1を調べた。ホモ接合体avp1-1では根と茎の発達の阻害がみられた。AVP1RNAiラインにおいても茎の発達の障害や、avp1-1と似た根の細胞のパターンの障害を示した。そのためAVP1RNAiラインは茎の発達の障害や、avp1-1と似た根の細胞のパターンの障害を示した。これらの観察によりavp1-1で見られる器官形成に関する表現型はAVP1に帰する事が強く示唆された。さらにH-PPaseが発達のプログラムにどのように影響するかを調べるためAVP1タンパク質の細胞内の分布を調べた。液胞膜の局在に加え、免疫標識でAVP1シグナルを野生型とAVP1OX AVP1-2の若い茎で調べた。AVP1OXの根のから得られた液胞、細胞膜、エンドソームのそれぞれのミクロソーム分画におけるAVP1シグナルは野生型より強かった。またAVP1OXミクロソーム分画においてP-ATPaseのタンパク量と、活性が増加を示した。avp1-1実生内ではP-ATPaseの減少が見られた。これらの結果はavp1-1の根の先端における免疫蛍光法で検出されたP-ATPaseシグナルの局在と一致していた。AVP1の機能の変異の増加や減少の表現型はオーキシンが関連する発達の変化がみられたが、オーキシンの合成量が変化しているわけではなかった。しかしAVP1OX内で観察される、側根の増加と重力屈性速度の増加は、細胞のオーキシンの取り込みと排出が増加したことを示唆する。細胞膜に局在しているH-PPaseはアポプラストを直接酸性化する機能を持つわけではないが、野生型、AVP1OX、avp1-1の根の伸長領域における液胞のサイトゾルとアポプラストのpHの計測によりAVP1OX、avp1-1は有意にpHを変化させることがわかった。AVP1OXとavp1-1はアポプラストのpHを計測したところ、AVP1OX、avp1-1においては有意にアポプラストのpHが変化していた。AVP1OX、avp1-1においてはP-ATPaseの活性変化によりアポプラストのpHが変化し、細胞内のプロトンの恒常性と勾配に影響することによって、間接的に極性オーキシン極性輸送の駆動力を変化させることが示唆された。またAVP1の活性が細胞内の放出キャリアの局在に影響するか否かについて、つまり具体的にはAVP1OXおよびavp1-1におけるPIN1の分布を調べた結果、AVP1の発現変化は直接的にPIN1の輸送に影響するということが示唆された。

以上の実験により、AVP1が細胞膜P-ATPaseや、PIN1等の輸送を介して、アポプラストのpHとオーキシン輸送の制御に関与することが明らかになった。またこれまでい知られていなかった、オーキシン輸送の促進や、オーキシンが関わる器官発達の制御における、AVP1の役割を明らかにした。

 

興味をもたれた方はぜひご来聴ください。           河口優子