2006年度  前期第3,4回  細胞生物学セミナー
日時 : 5月16日(火) 16:30〜
場所 : 総合研究棟6階 クリエーションルーム
Arabidopsis thickvein Mutation Affects Vein Thickness and Organ Vascularization, and Reside in a Provascular Cell-Specific Spermin Synthase Involved in Vein Definition and in Polar Auxin Transport
Clay, N. K. and Nelson, T.  (2005)
Plant Physiol.,
138, 767-777
シロイヌナズナの thickvein 変異は葉脈の肥厚と器官脈管化に影響を与え、葉脈分化とオーキシンの極性輸送に関与する前形成層細胞に特異的なスペルミン合成酵素に存在する
 葉における葉脈のパターン形成は、そのパターンが二次元的で遺伝性があることと、葉原基の介在生長の間に生じることから、空間的・時間的に認識・応答するシグナル経路を調べるためには理想的である。葉脈のパターン形成を支配する分子機構は未だ解明されてないが、維管束分化におけるオーキシンの役割については詳細に調べられている。特に前形成層 (維管束の前駆組織) 形成におけるオーキシンの極性輸送の役割については研究が進んでおり、葉の縁からのオーキシンの求基的な輸送は葉脈のパターン形成を支配していると考えられている。これまでに多くの葉の脈相パターンの変異体がシロイヌナズナで単離されており、これらの多くは葉脈の連続性の崩壊、短い葉脈といった表現型を示した。これら変異体の花茎ではオーキシン輸送の減少が示された。また多くのオーキシン応答変異体は葉に維管束の欠損を持っており、これらのことからも葉脈のパターン形成にオーキシンが深く関与することが示唆されている。
 本研究において、筆者達はシロイヌナズナの劣性変異体
thickvein (tkv) を同定した。この変異体のロゼット葉は野生型に比べサイズが小さいが、平方面積あたりの葉脈は増加し密集している。加えて、葉の中央脈と二次脈の両方が野生型に比べて肥厚していることがわかった。また tkv 変異体の花茎は短く、葉脈で見られたのと同様に花茎においても導管は肥厚していた。このような葉と花茎における肥厚した脈管構造の発達は、木部、師部および前形成層細胞の数の増加によるものであった。
 次に筆者らは
tkv 変異体の花茎においてオーキシンの極性輸送能が野生型に比べ66.2%に低下していることを明らかにした。このことはオーキシン輸送の欠陥が tkv 変異体において維管束の表現型の原因であることを示唆している。また、他のホルモンに対する応答も調べたところ、 tkv 変異体は外因性のサイトカイニンに対して過剰に反応した。
 次にマップベースクローニングを行った結果、この
tkv 変異はACL5 遺伝子に存在することが明らかになった。ACL5 遺伝子はポリアミンのひとつであるスペルミンを合成するスペルミン合成酵素をコードする。in-situ ハイブリダイゼーションおよびGUSレポーター遺伝子を用いた解析により、ACL5 遺伝子は前形成層に特異的に発現することが明らかになった。
 以上の結果は、
ACL5/TKV が葉脈の決定とオーキシンの極性輸送に関与し、ポリアミンが葉脈分化の過程に関与することを示している。
興味をもたれた方はお気軽にご来聴ください。来聴を歓迎します。 玉置大介