2006年度　前期第5回　細胞生物学セミナー　

日時　：　5月23日（火）　17:00〜

場所　：　総合研究棟6階　クリエーションルーム

Variation in growth rate between Arabidopsis ecotypes is correlated

with cell division and A-type cyclin-dependent kinase activity

Gerrit T.S. Beemster, Kristof De Vusser, Evelien De Tavernier,

Kirsten De Bock, and Dirk Inzé(2002)

Plant Physiol., 854-864

シロイヌナズナの生態型間での生長率の変異は

細胞分裂、そしてA型サイクリン依存性キナーゼの活性と相関している

　　植物の生長率は、自然の生育条件下での適応的特徴と同程度に、栽培植物にとって農業上重要な特徴である。故に速い生長および遅い生長と、それらに付随した生理学的特徴は広範に調べられてきた。しかし生理学的研究の豊富さとは対照的に、生長率の差の基礎に関する遺伝学的研究は不足している。遺伝子研究のためのモデル植物であるシロイヌナズナは、多数の生態型がその研究の開拓者によって集められて以来、生態型の比較を通し、組換えによる近交系を用いた遺伝子マッピングによって幅広い生理学的過程が調べられてきた。しかし、標準化された研究室の条件下における、シロイヌナズナの生態型の生長率の違いについては、いくつかの例外はあるもののあまり発表されていない。そこで本論文では、遺伝的に決定された生長率の差における、細胞周期の制御の役割を探索することを目的とした。

　シロイヌナズナの一次根の生長において18の生態型の間で、変異の原因となる生長の過程を調べるために動的な解析を用いることにした。そして細胞周期の制御と植物の生長率の関係を調べるために、まず皮層細胞列に焦点を当てて、成熟細胞の大きさと細胞産生の寄与を決定した。定常状態での生長において根の伸長率とは細胞産生の結果と成熟細胞の大きさである。根の伸長率は生長が最も遅い生態型と最も速い生態型との間で4倍も異なっていた。この差は成熟した皮層細胞長と細胞産生の割合の変異によってほとんど説明できた。細胞産生は細胞周期時間の差によって、またそれより低い程度ではあるものの分裂組織の細胞数の差によって決定される。成熟した皮層細胞の長さと細胞周期持続時間、分裂細胞の数が全てシロイヌナズナの１８の生態型間の一次根の伸長率における変異に寄与すること、それらはそれぞれ独立して働くことが明らかになった。

また、各細胞が経験する核内倍加のサイクル数によって決定される核DNAの内容物と細胞の大きさの違いに関連があるという仮説について調べた。しかし仮説とは異なり、核DNAと成熟した皮層細胞長との間には相関が見られず、これらの要因が独立していることが示された。しかし、細胞産生率とサイクリン依存性キナーゼ（CDKA）の活性との間に強い相関は存在した。核内倍加とキナーゼの活性には相関がないこともわかっている。またCDKA活性の違いの32％がタンパク質レベルによって説明できたことから、CDKAの制御因子もまた、サイクリンとその阻害因子のように関与する可能性がある。

これらのデータは、遺伝的差異によって影響を受ける細胞周期の制御と植物全体の生長率の間の機能的なつながりを明らかにした。

興味を持たれた方はお気軽にご来聴ください。　　前田綾子