2006年度 後期第14、15回 細胞生物学セミナー
日時:12月6日(水) 16:30〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
The power of chemical
genomics to study the link between endomembrane system components and the
gravitropic response
Surpin, M., Rojas-P.
M., Carter, C., Hicks R. G., Vasquez, J., and Raikhel, V. N. (2005)
Proc.Natl.Acad.Sci.USA , 102 ,4902– 4907
ケミカルゲノミクス(chemical genomics)とは、すべての遺伝子の遺伝子産物に対する低分子化合物を網羅的に探索し、それらの化合物を使って生命現象を解明しようとするものである。死亡率や重複性のために従来の遺伝学では困難であった解析を行うことのできる、強力な方法である。この論文では、内膜輸送と重力屈性の関係性を理解することを目的とし、シロイヌナズナの芽生えにおいて10000種類のケミカルライブラリーのスクリーニングを行い、異常な重力屈性応答を引き起こす4つの低分子化合物(5403629、5271050、5850247、6220480)を特定し、それらの解析を行った。
根と胚軸の両方での、これらの化合物の重力屈性への影響を調べ、相対的な能力を決定するために用量−反応実験を行った。その結果、5271050は胚軸の屈曲抑制が不完全であり、根への抑制効果は無いことがわかった。また、5850247は胚軸と根の両方で抑制を示し、6220480は弱い抑制と胚軸でらせん状の生長を引き起こすことが観察された。さらに、50%の重力屈性の抑制を示す濃度(IC50s)を測定したところ、5403629、5850247に比べ、5271050、6220480のほうが抑制能力が小さいことがわかった。
重力屈性は生長を必要とするため、重力屈性への影響は間接的で、いくつかの化合物は生長を抑制している可能性がある。そこで、胚軸と根の長さを測定したところ、6220480は根の生長を抑制することにより屈性を抑制していることが示唆された。
さらに、これらの化合物の可逆性と誘導能を調べたところ、5403629、5271050の抑制は可逆的であるが、5850247による抑制は非可逆的であった。また、3つすべての化合物がたった24時間の処理で抑制を誘導することがわかった。さらに液胞の形態の可逆性を調べたところ、5403629と6220480で早い可逆性が、5850247で8日間という遅い可逆性が見られた。
これらの化合物がオーキシンと同様の効果を持つかどうかを測定するために、DR5を用いて観察をおこなった。その結果、5403629は根においてオーキシン様の活性を示し、5850247、5271050、6220480はオーキシン活性を持っていないことが示された。また5403629、5271050、6220480は、オーキシン輸送には影響しないことも示された。
このように胚軸や根、もしくはその両方で液胞や内膜特異的に標的にしていることが明らかな4つの化合物を同定してきた。結果は、オーキシンであることが予想される化合物540369に加え、二つの化合物(5271050 と6220480)は重力屈性応答とオーキシン経路を通さない内膜システムに影響していることが示された。さらに5850247は、内膜輸送にも影響するメカニズムを通してオーキシン応答を減少させているかもしれないことが示された。
興味のある方は、ご来聴ください。 安藤名央子