2006年度 前期第9、10回 細胞生物学セミナー 

日時 : 6月20日(火) 16:30〜

場所 : 総合研究棟6階 クリエーションルーム

Analysis of cell division and elongation underlying the developmental acceleration of root growth in Arabidopsis thaliana

Gerrit T.S. Beemster and Tobias I. Baskin (1998)

Plant Physiol., 1515-1526

 

シロイヌナズナの根の生長の加速を基礎とする細胞分裂と伸長の解析

 

 

 植物生理学の中心的な問題の一つは植物が如何にして生長を制御しているかということである。植物の器官の生長率は発達や刺激への応答によって変化するが、それは細胞の伸長と産生の2つの過程によって制御されている。生長率の決定に直接的に関わっているのは細胞伸長である。だが細胞産生もまた一定時間内に伸長する細胞数の決定を通して間接的に生長率に関わっているし、細胞伸長は逆に、分裂組織から細胞を動かすことで産生を続けるよう細胞産生を制御している可能性がある。生長率の制御に関する研究では分裂組織の伸長が計測されることはめったになく、同時に細胞分裂を計測する研究で伸長が数量化されることもまた少ない。しかし植物がどのようにして器官の生長を制御しているかを理解するためには、細胞産生と同様に生長領域全体の伸長を数量化することは必要である。本研究の目的は細胞伸長と細胞産生の、根の増加性の生長率に対する寄与を解明することである。

 私たちはシロイヌナズナの根の細胞産生と伸長の関係に取り組み、同条件下で細胞産生率と分裂率を数量化し、細胞分裂率と同様に分裂細胞数を数量化できる動的測定法を用いることにした。そして長軸方向について細胞の位置の置換速度(μm h-1)の空間特性を測定し、分裂と伸長のパラメーターを算出した。それらは局所的な細胞産生(cells mm-1h-1)と細胞分裂(cells cell-1 h-1)を内包している。細胞伸長率(strain rates)の最大の値 は6日目と10日目で変化しなかったが、生長領域の長さは約2倍にまで増大していた。根の伸長の加速は生長領域の縦方向の増加によって引き起こされたと言える。生長領域の拡大とそのために生じる根の伸長率の加速は、それらに比例して増加する細胞産生を伴っている。細胞分裂率は6日目から10日目で殆ど一定のままであったが、一個の細胞が細胞分裂を続ける距離は長くなり、その距離間に分裂細胞として存在する細胞数は増加した。産生の増加は徐々に分裂細胞数が増加していくことによって引き起こされたと考えられる。そのうえ位置に依存する細胞分裂率の特性は6日目と10日目で本質的に一定であった。分裂組織は一般的に考えられているよりも長くなり、細胞が急速な伸長をする領域へ十分に伸長していく。測定は皮層細胞と、二つのタイプの表皮細胞(根毛形成細胞と根毛非形成細胞)で行われた。表皮細胞の二つのタイプでの、分裂組織の長さと細胞分裂率はともに皮層細胞のそれとよく似ており、表皮細胞の二タイプ間での大きさの違いは分裂組織の先端から生じていた。これらの結果は、異なる細胞長を持つ組織の発生と器官の拡張率の調節に対して、分裂細胞の数の制御がいかに重要かを示している。

 

興味を持たれた方はお気軽にご来聴ください。