2006年度  後期   第3回  細胞生物学セミナー

日時 : 10月10日(火)  17:00〜

場所 : 総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Growth patterns inferred from anatomical records

Empirical tests using longisections of roots of Zea mays L.

Silk.W.K., Lord.E.M., Eckard.K.J (1989)

Plant Physiol. 90, 708-713

 

解剖学的記録を用いた成長パターンの推測

 

成長の分析は何十年も前から成長生理学者の手によって行われている。その中から経験的に細胞長と細胞伸長のパターンには一貫したモデルがあると推測されている。根における細胞分裂や細胞伸長は先端の成長領域に限られた現象である。最近の研究では、成長速度、変化率、成長曲線の間で関連性が指摘されている。本論文の目的は、正確な成長分析が解剖学的な記録や数学的な公式によって求められるかテストすることである。そこで、トウモロコシを二種類の温度条件、暗条件下で生育させ、顕微鏡写真から細胞壁の位置をデジタル化したデータを用いて、成長曲線[Z(t)]、速度[V(z)]、成長率[R(z)]を求めた。ここで、t=時間、z=細胞の位置、l=細胞長、f=細胞フラックス、とし、新しい細胞が伸長のみの領域に加わるinterval timeC = cellochronとすると、t=n・C、V=l・f、R=f・dl/dzの各式が得られた。

成長分析の記録は、時間の経過とともに伸長した組織をマークする実験によって得られる。解剖学的記録とモデルを用いた数学的手法による成長分析とマーキング実験による成長分析を比較した。過去の論文から、温度による違いが成長速度と成長率を変化させ、成長領域の長さにはほとんど影響を与えないことが明らかにされている。つまり、二つの温度条件により、異なる成長の軌跡をたどったとしても、いずれの成長分析においても成り立つと考えられる。実験の結果、成長曲線、成長速度についてマーキング実験との比較においてよく似た値を示した。しかし、成長率においては値が振動した。このことは成長速度が一定であった場合、成長率が一定であるとの予測に反する。

 この振動が生物学的な成長率を正確に現しているのか疑問が残る。この結果が生物学的な細胞分裂速度の変化によるのか、数学的手法における解剖学的条件設定の失敗によるのかはっきりとしない。将来的に、この人為的な原因を取り除き、細胞分裂速度が変化しているかどうか確かめる必要がある。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください。来聴を歓迎します。  角玄祐司