2006年度  後期第8,9回  細胞生物学セミナー

日時:117日(火) 16:30

場所:総合研究棟6階 クリエションルーム

Cortical cell death, cell proliferation, macromolecular movements and rTip1 expression pattern in roots of rice (Oryza sativa L.) under NaCl stress

Samarajeewa,P.K., Barrero,R.A., Umeda-Hara,C., Kawai,M., Uchimiya,H. (1999)

Planta 207, 354-361

 

塩分ストレス下でのイネの根における皮層の細胞死、細胞増殖、高分子移動、およびγTip1発現様式

 

プログラム細胞死は多細胞生物の発達に不可欠な能力であり、高等植物の様々な発達上の過程でも観察されている。前回の論文で、細胞死が起こる前の細胞の現象を通気組織形成におけるイネ(Oryza sativa L.)の根の皮層で調べたところ、細胞死が特定の位置で始まることが分かった。さらに、これらの細胞の形は周辺に位置する細胞とは異なっており、細胞死はまず皮層の中間の細胞において原形質膜の酸性化と膜分解が起こり、それから隣接している細胞に放射状に続くことを証明したまた、著書らは皮層での細胞間連絡を調べるために、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)と結合した異なる分子サイズのマイクロインジェクションを行い、9.3kDaの分子が主に放射方向に移動することを観察によって確かめた。それは連続しておこる細胞死の経路と一致しており、原質形連絡を通じた高分子の移動の可能性が示唆された。

本論文では、細胞増殖、細胞拡大および細胞死に関するNaClの作用をイネ(Oryza sativa L.)の種子根で調べた。NaClは皮層組織での細胞数の増加と細胞死を抑制していたが、最終的な皮層の細胞サイズはNaClにさらされなかったコントロールの根と同じだった。このことからNaClが細胞分裂から細胞伸長までの移行期を刺激したのではないかと考えられた。皮層の細胞死においてNaClは、液胞膜崩壊に起因した細胞崩壊と原形質膜崩壊の初期段階を遅らせることが分かった。さらに、NaClは根の皮層における巨大分子の細胞間移行にどんな影響も与えなかった。

また、塩分ストレスと関連した液胞膜の内因性タンパク質(γTip1)とユビキチンをコードしている遺伝子の発現をin-situ hybridizationによって分析した。NaClストレスはrTip1の発現を促進すると報告されている。In-situ hybridizationの結果、コントロールにおいて、γTip1遺伝子の発現が種子根の後生木部細胞同様に表皮と外皮の細胞に主に局在することが分かった。NaCl処理の場合、コントロールで発現したのと同じ組織においてγTip1の発現は増強され、特に皮層の柔組織において強い発現が引き起こされた。ユビキチン遺伝子の場合、コントロールの根での発現はすべての組織、特に細胞分裂領域に及んだ。NaCl処理ではユビキチン遺伝子発現に影響はみられなかった。これらのことは、液胞膜の主要な構成要素をコードしている遺伝子(γTip1)の刺激はNaCl処理が細胞分裂から細胞伸長への移行を刺激する可能性を示唆する。

 

興味を持たれた方はお気軽にご来聴ください。赤井 由紀