日時:4月30日(水)14:00
場所:総合研究棟6F クリエーションルーム
Flavonoid accumulation in Arabidopsis repressed in lignin synthesis affects auxin transport and plant growth
Besseau, S., Hoffmann, L., Geoffroy. P., Lapierre, C., Pollet, B., and Legrand. M. (2007)
Plant Cell, 19, 148-162
リグニン合成が抑制されたシロイヌナズナ植物体におけるフラボノイド蓄積は
オーキシン輸送と植物の成長に影響する
植物の生合成において、フェニルプロパノイド経路に由来する化合物は、その生育環境において植物の発達や相互作用に重要な役割を果たしている。例えば、フラボノイドは紫外線から植物体を守ったり、植物と共生生物の相互作用に関わるシグナルとして働いたりしている。他にも、モノリグノールと呼ばれる3つのリグニンモノマーはフェニルプロパノイドからを生合成される。リグニンモノマーが重合してできるリグニンは細胞壁中に埋め込まれていて細胞壁を堅くしたり、細胞壁に疎水性を与えたりしている。このようにして、リグニンは植物体を構造的に強化し、水輸送に対して重要な役割を果たしている。
フェニルプロパノイド経路中の p-クマロイル CoAはフラボノイドを作る経路とリグニンを作る代謝経路の分岐点に位置し、以下の2つの酵素の基質である。
(1)カルコン合成酵素(CHS):p-coumaroyl CoAと3つのマロニルCoA分子の縮合によってフラボノイド骨格を合成する反応を触媒している。
(2) hydroxycinamoyl-CoA shikimate/quinate hydroxycinnamoyl transferase (HCT):おもに2つのリグニンの構造の単位、すなわちグアイアシルおよびシリンギル単位を生合成する。
筆者らは以前の研究で、シロイヌナズナにおいてRNAサイレンシングによりHCT遺伝子を発現抑制したところ、成長が抑制され、葉は紫色になり、アントシアニンが蓄積することが示唆された。いくつかのフラボノイドが、植物の成長に影響するオーキシン輸送を調節すると考えられている。本研究ではHCTをサイレンシングした植物の成長阻害の原因がリグニン合成の変化によるものか、フラボノイド蓄積によるオーキシン輸送の阻害によるものかを調べた。
その結果、HCTのサイレンシングによるリグニン合成の抑制により、カルコン合成の活性を通じてフラボノイドの代謝の流れが変わり、様々なフラボノール配糖体やアシル化したアントシアニンが大量に蓄積することが示された。しかし、sinapoylmalateにおいてはほとんど影響がなく、このフェニルプロパノイド化合物の合成はHCTに依存しないことが示唆された。HCTを発現抑制した植物の成長は光によって調節され、カルコン合成酵素の発現に依存することが示された。HCTを発現抑制した茎の組織化学的な観察では、管状要素の変化が確認された。HCT欠損植物の成長抑制は、オーキシン輸送が抑制されているためであることが示された。HCT欠損植物において、カルコン合成遺伝子の発現を抑制することでフラボノイド蓄積を抑制したところ、オーキシン輸送や成長は野生種と同程度に回復させた。
これらのデータからHCTを発現抑制した植物の成長抑制はリグニン合成の変化によるものでなく、フラボノイドの蓄積によるものであることが証明された。
興味をもたれた方はぜひご来聴ください。 篠原弘徳