2008年度 第10回  細胞生物学セミナー

日時:78()  17:00

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Rice OsHKT2;1 transporter mediates large Na+ influx component into K+-starved roots for growth

 

Horie,T., Costa,A., Kim,T.H., Han,M.J., Horie,R.,  

Leung,H., Miyao,A., Hirochika,H., An,G., and Schroeder,J.I.(2007)

EMBO J.26: 3003-3014

 

イネのOsHKT2;1トランスポーターは低カリウム状態でも成長するために多量のNaの摂取を行う

 

植物体内でのNaの過度な蓄積は、葉を白化させるなど成長に悪影響を及ぼす。その一方で、Naは無機養分でもあり、古典的な植物生理学の研究では、低濃度のNaは成長を促進することが知られている。しかしNaの取り込みの仕組みについては分かっていない。植物には様々なNa選択的透過を行うHKTタイプのトランスポーターが存在することが今までの研究で明らかとなっている。イネではOsHKT2;1(かつてOsHKT1と呼ばれていた)が膜を介したNa濃度勾配に従って摂取を行う輸送体として知られている。しかし、NaトランスポーターであるOsHKT2;1の生体内での機能は未だ未知な部分が残されていた。Na取り込みのシステムをモデル化するためには、Naの輸送体の実体を解明することが必須である。そこで本研究の筆者らはOsHKT2;1の生理機能の解明を目指した。

筆者らはOsHKT2;1の変異体であるoshkt2;1-1oshkt2;1-oshkt2;1-3、を単離することに成功した。変異体を用いた様々な条件下でイネの生育を行った実験では、低カリウム状態で生育を行った場合、oshkt2;1変異体のシュートの生重量は野生型(WT)と比較して30~40%減少した。また、葉の成長量の減少が見られた。このことからOsHKT2;1トランスポーターは低カリウム状態で植物の成長を促す働きをしていることが示唆された。

次にOsHKT2;1が植物のどの部分で発現するかを調べるために、OsHKT2;1のプロモーター領域およびGUSもしくはGFPレポーター遺伝子のコントラストを導入した形質転換体を作製し観察した。GUSおよびGFPシグナルは主根と根の先端以外の内皮と表皮で強く観察された。また、葉においては維管束で強いGUSシグナルが観察された。GFPの蛍光は低カリウム状態で主根の表皮で観察された。このことから、OsHKT2;1の発現には外部環境が関係していると考えられた。

また、 Naをトレーサーとして用いた実験により、変異体においてはNa取り込みが少ないことが分かった。Kの代替として Rbをトレーサーとして用いた実験では、WTと比べてわずかな違いが見られたものの、OsHKT2;1の変異体もWTと同じく高い取り込み能力を持っていることが明らかになった。

WTの根を5 mMの低カリウム状態においた後、外部の溶液を30 mMNaClに置き換えた場合に、置換後Na摂取は急激に減少した。この減少の原因はNaClへの置換によりOsHKT2;1のmRNAが急激に減少したためであることが分かった。置換後のこの急激なNaの減少の仕組みを探るべく、様々な阻害剤を用いてNaの摂取量を測定した結果、プロテインキナーゼ阻害物質を用いたときにNaの摂取量の減少が最大であり、その仕組みにリン酸化が関与することが示唆された。

以上より、OsHKT2;1は外部の環境に応じてNaの取り込みを行っていると結論付けられた。

 

興味をもたれた方は、是非御来聴ください。    中野 美穂