2008年度 第9回 細胞生物学セミナー
日時:7月22日(火) 17:00〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
 
Ethylene upregulates auxin biosynthesis
in Arabidopsis seedlings to enhance inhibition of root cell elongation
 
Swarup, R., Perry, P., Hagenbeek, D., Straeten, D. V. D., Beemster, G. T. S.,
 Sandberg, G., Bhalerao, R., Ljung, K., and Bennett, M. J.(2007)
Plant Cell, 19: 2186–2196.
 
エチレンはシロイヌナズナ実生においてオーキシン生合成を上方制御し
根の細胞伸長阻害を促進する
 
 
 エチレンは植物の根の発達にとって重要な役割を果たす調節シグナルのひとつである。エチレン生合成の阻害またはエチレンシグナル伝達の阻害は、トマトの根において圧縮した土壌や砂地の土壌に根を侵入させることができる能力を失わせると言われている。またシロイヌナズナの根においてエチレンやその前駆体である1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸(ACC)は、異所的な根毛の誘導・根の太さの増加・急速で可逆的な細胞伸長の下方調節の3つの生長反応を引き起こすと言われてきた。この3つのエチレン応答反応は、足場となる土壌への侵入を助けるダイナミックな生長の調節を根に与えている。これまでにシロイヌナズナを用いた遺伝学的研究により、調節シグナル伝達の鍵となる多くの構成要素が同定されてきた。興味深いことにオーキシン輸送やオーキシンシグナル伝達構成因子における多くの変異はエチレンに対する異常な応答を引き起こし、エチレンとオーキシンの2つの生長調節因子の間のクロストークが示唆されてきた。
 本研究ではエチレンが根の生長を調節するために、なぜオーキシンを必要とするかを調べた。はじめに筆者らはシロイヌナズナの根におけるエチレン生合成の操作がオーキシン生合成の割合に影響するかどうかを調べた。ACC処理によってIAA合成の割合は有意に増加し、逆にACCシンターゼ阻害剤であるアミノエトキシビニルグリシン(AVG)処理によってIAA合成の割合は有意に減少した。さらにオーキシン応答レポーターIAA2pro:β-glucuronidase(GUS)の利用によりオーキシン応答遺伝子の発現に対するエチレンの影響が観察された。この実験にはエチレン恒常性応答変異体ctr1、エチレン非感受性変異体ein2、オーキシン流入キャリアAUX1の変異体(aux1-2,aux1-22)が用いられた。IAA2pro:GUSはエチレン処理によって側方根冠と分裂組織細胞、新たな伸長細胞において強く発現し、またエチレン非感受性となる変異体においては発現が弱くなった。
 またエチレンによる細胞伸長阻害について調べるために、根端から基部にかけて根軸に沿って細胞長を計測し、細胞の位置情報を持つ細胞長プロファイルを用いた詳細な生長解析が行われた。エチレン処理により野生型において成熟時の細胞長、生長率、strain rate(生長率の相対的な変化率)は減少した。しかしエチレン処理はaux1に対しては小さな影響しか持たなかった。これによりACCによる根の細胞伸長阻害の能力はオーキシンが存在することで促進されることが明らかになった。これらの結果から筆者らはエチレンはオーキシンの生合成によって根の細胞伸長を阻害する能力を促進すると結論づけた。
 
ご興味をお持ちの方はお気軽にご来聴ください。
前田綾子