2008年度前期 第12回 細胞生物学セミナー
日時:7月29日 (火) 17:00〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
The acyltransferase GPAT5 is required for the synthesis of
suberin in seed coat and root of Arabidopsis
Beisson, F., Li, Y.
, Bonavenyure, G.
,Pollard, M.,Ohlrogge, J. (2007)
Michigan State
University,
University of Lausanse, Switzerland
Plant Cell,19:351-368.
アシル基転移酵素GPAT5はシロイヌナズナの種皮や根での
スベリンの合成のために必要とされる
すべての植物体は水分の蒸発を防ぎ、病原性のカビやバクテリアの侵入を防ぐために油性化合物からなる層で植物体の表面を覆っている。この層の成分の主要な要素としてクチンやスベリン、ワックスがある。クチンやスベリンは脂肪酸とグリセロールがベースの植物ポリマーである。クチンはクチクラの主要構成成分であり、植物の地上部におけるの表皮細胞の空気にふれている部分の細胞壁を覆うように多重の層構造をしている。スベリンは内皮のカスパリー線や植物の地下部器官における最外層の細胞壁の主要成分であり、木本植物の二次肥大成長のときにコルク層を形成する細胞にスベリンが合成され沈着する。さらにスベリンはストレスや傷に応答して合成される。このようにクチンやスベリンは植物体において重要な生理的役割をもつにもかかわらず、アシル基転移反応を含んでいる生合成経路は明らかになっていない。そこで本研究では、アシル‐CoA:グリセロール‐3-リン酸アシル基転移酵素活性をもつタンパク質をコードしているGPAT5の2つのシロイヌナズナノックアウト変異体(gpat5-1とgpat5-2)の同定と特徴づけを報告する。
実験には土壌配合のポットまたはMS栄養塩類を含んでいる寒天培地プレート上にシロイヌナズナ種子を播種し、3日間4℃の低温処理後生育容器内で生育して使用した。野生型植物体のGPAT5のRT-PCR解析では花や根、種子中で検出されたが、茎や葉では検出されなかった。この結果を確認し、GPAT5の発現のより正確な組織特異性を調べるためにGPAT5のプロモーターにGUSをつなげたProGPAT5:GUS形質転換体においてGUSの発現を観察した。RT-PCR解析と一致してGUSの発現は花や根、種子で示されたが茎や葉では発現がなく、さらに種子の乾燥ステージや花粉の成熟度合いによってProGPAT5:GUS発現が変化することがわかった。gpat5-1とgpat5-2変異体の植物体は野生型の植物と比較しても形態学的な違いはみられず同様のサイズに達し、稔性や花粉粒子のサイズ、種子の重さなどにも違いはみられなかったため、gpat5変異体の脂肪酸を定量的および質的に解析した。その結果、gpat5変異体は不溶性脂質ポリエステルの合成において変化していたが、貯蔵脂質や膜脂質の大部分の合成について損なわれることはなかった。テトラゾリウムレッドを用いた種皮透過性テストや、スダンブラックBやスダンレッド7Bの脂質ポリエステル染色によって、gpat5変異体において種皮は野生型よりも高い透過性を示すこと、スベリン量が減少することが示唆された。gpat5変異体の種皮透過性の表現型は遺伝学的解析によって単一劣性アリルとして単離され、母性起源の組織であることが示された。また、著者らは、gpat5変異体の種子休眠や発芽率について解析し、野生型種子よりも休眠脱出が遅いことや塩分に対するより高い感受性を示すことを明らかにした。
これらの結果より、シロイヌナズナの種皮や根でのスベリン合成において、アシル基転移酵素GPAT5は決定的な役割を担っており、植物の器官の正常な機能のために必要とされることが証明された。スベリンやクチンの合成に関与するアシル基転移酵素の研究は、今後植物に対し有害生物またはストレスに対する抵抗性をより与えることにつながるだろう。
興味を持たれた方は、是非ご来聴ください。 岡本 絵美