2008年度 後期第6回 細胞生物学セミナー

日時:1118日(火)  16:30

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Tissue localization of a submergence-induced

1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid synthase in rice

Zhou, Z., Engler, J. D. A., Rouan, D., Michiels, F., Montagu. M. V., Straeten, D. V. D. (2002)

Plant Physiol. 129 : 72–84

 

 

イネの浸水誘導による

1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸シンターゼの組織局在性

 

 

 イネ(Oryza sativa)は、冠水ストレスに比較的よく適応しているといえるが、ときに、極端に高い水かさに長期間おかれるという、苛酷なストレスに対処しなければならない場合がある。洪水下でのイネの適応として、浮きイネでは主に成長がみられ、しばしば完全に冠水に陥る低地イネや完全に冠水の実生では、嫌気応答を主とする冠水耐性がみられる。冠水状況下のイネでは、内在性酸素濃度が減少し、エチレンの生産と蓄積の増加が起こることが報告されている。冠水に起因する低酸素状態によって誘導される遺伝子の1つに1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸シンターゼ(ACS)をコードするものがある。このエチレン前駆体1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)の合成酵素であるACSによるACCの生成は、エチレン生合成における調節段階だと考えられている。

 イネの冠水反応には、少なくとも2つのACS遺伝子が関係すると考えられている。以前の研究報告では、低地イネと浮きイネの両方において、実生の長期完全冠水および短期完全冠水のいずれの場合においても、OS-ACS5遺伝子の発現が誘導され、ジベレリンとアブシジン酸のバランスによって発現がコントロールされることが明らかにされた。

 そこで本研究では、通常での発達と完全冠水状況下において、in situ ハイブリダイゼーションと組織化学を用いてOS-ACS5 mRNAの組織および細胞の局在性を明らかにすることを目的とした。OS-ACS5 - gusを保有した遺伝子組換えイネを材料にし、β-グルクロニダーゼ(GUS)活性を調べることによってOSACS5発現の時間的・空間的調節を調べた。空気中で成長したイネの実生でホールマウントin situハイブリダイゼーションを行った結果、OS-ACS5の発現が、茎頂・分裂組織・葉・不定根原基・そして未成熟の若い茎の維管束組織と葉鞘において低レベルで観察された。完全冠水状況下では、若い茎と葉鞘の維管束で強く発現していた。そして、組織化学的GUS解析の結果も、ホールマウントin situ ハイブリダイゼーションによる結果と一致していた。

 以上の研究結果より、OS-ACS5は通常の状況下ではイネの植物体の成長における役割を果たし、完全冠水の状況下では成長を強化するために補充されるということが示唆された。冠水ストレス下での根-シュート間コミュニケーションにおけるOS-ACS5の関与の可能性と、低酸素ストレス下での通気組織形成におけるOS-ACS5の推定される役割を考察する。

 

興味を持たれた方は、是非ご来聴ください。   梅村 このみ