2008年度 後期第7回 細胞生物学セミナー

日時:1125() 16:30~

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Progressive inhibition by water of cell wall extensibility and growth

along the elongation zone of maize roots is related to

increased lignin metabolism and progressive stelar accumulation of wall phenolics

Fan,L., Linker,R., Gepstein,S., Tanimoto,E., Yamamoto,R., and Neumann,M,P.

Plant Physiol.140:603-612

トウモロコシの根の伸長帯における水のストレスによる細胞壁の伸展性と成長の低下は、リグニンの伸長代謝の促進とフェノール類の細胞壁の中心柱への蓄積の促進に関係している

 

本研究は、水ストレスを与えられたトウモロコシの種子根において、フェノール化合物の重合が、根の伸長を抑制していることを明らかにすることを目的とした。トウモロコシの種子根に水ポテンシャルが0.5 MPaポリエチレングリコールによって引き起こされる水ストレスを48時間与えた場合、コントロールと比較してその根長は約半分であった。また根端から0-33-66-9 mmの範囲に分けて、コントロールと水ストレスを与えた根の伸長速度を比較すると、水ストレスを与えた根における伸長阻害の割合は各々0%57%93%であった。また、同様に細胞の伸長速度も水ストレスの影響による減少が確認された。

リグニンはフェノールが重合することによって合成され、細胞壁の伸展を抑制する働きを持っている。そこでリグニンの生合成と水ストレスとの関係を調べるために、リグニンの生合成に関わるCCR1CCR2遺伝子を用いてRT-PCRとノーザンブロット解析を行った。その結果、水不足によってCCR遺伝子の転写が増加していた。水ストレス処理1時間後にはCCRの転写レベルは上方制御されており、水ストレスによる細胞の伸長の減少と合わせて考えると、細胞にリグニンが蓄積していると考えられた。

これらのリグニンの蓄積を明らかにするため、FTIR分光による分析を行った。種子根を根端から0-33-66-99-12 mmの位置にわけて分析を行った結果、6-9 mmの位置でもっとも高いフェノール化合物による赤外吸収が確認された。6-9mmの位置でのフェノール化合物による吸収の増加は水ストレスによる初期段階での発達の抑制によるものと考えられた。根の組織におけるフェノールの局在を調べるために、伸長領域に沿って0-33-66-9 mmにおいて横断切片を作製しUV励起光を当て自家蛍光を観察することによって、コントロールと水ストレス下での比較を行った。0-3 mmの位置ではいずれの場合でも蛍光は弱かった。3-6 mmの位置で比較した場合、水ストレスを与えた根では中心柱と外皮において、より強い蛍光が確認された。また、コントロールと水ストレス下のそれぞれで生育した根の伸長帯切片を切り出し、縦にスリットを入れ観察を行った。いずれの場合でもスリットの両側は内側に屈曲した。いずれの場合の根においても生長を制限している組織は内側にあると考えられた。Maule試薬を用いた染色により、リグニンの存在部位を横断切片において確認した。コントロールと水ストレスの両方の場合で、6-9 mmの位置の中心柱の維管束において強い染色が確認された。

 細胞壁におけるフェノールの蓄積の局在は、根の生長と細胞の生長の抑制に関係していることが分かった。伸長領域での若い細胞の成長の抑制は水ストレスがなくなるまでの間の生長を抑制させることで、ストレスがなくなる時まで細胞を若い状態に保つ事ができると考えられる。フェノールの蓄積の局在は、乾燥環境下での順応の促進をしていると考えられる。