2009年後期 第3回 細胞生物学セミナー

日時:10月13日(火)17:00~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

 

Effect of magnetic fields on cryptochrome-dependent responses in Arabidopsis thaliana

Harris, S., Henbest, K., Maeda, K., Pannell, J., Timmel, C., Hore, P., Okamoto, H.

(2009)

J. R. Soc. Interface, doi: 10.1098

 

シロイヌナズナのクリプトクロムに依存する反応に対する磁場の影響

 

近年の研究において、鳥の磁気コンパスは環境における光に影響を受け、青色光下で正常な渡りを示すことなどから、青色光受容体であるクリプトクロムが磁気受容体であると考えられている。Ahmadら(2007)により、植物においても、500 μTの磁場に曝露した場合、シロイヌナズナの芽生えにおける胚軸の生長の青色光による阻害が地球磁場(約40 μT)と比べ増加していることが観察された。また、青色光により引き起こされるCRY2の分解とアントシアニンの蓄積も500 μTで増加したことも観察された。これらの結果は、クリプトクロム光受容体内の光誘導の電子伝達により形成されたフラビントリプトファンのラジカルペア反応によるものと解釈されている。

本研究ではこれらの実験の再現性を確認することに加え、胚軸生長が磁場強度に依存したものか否かを調べるために0 μT、1000 μT、100 mTにおいたシロイヌナズナ芽生えの胚軸の長さを測定し、またCHS、HY5、GSTをそれぞれコードする3つの遺伝子の発現量の変化を調べた。そして青色光の強さの影響を調べた。遠赤色光下ではシロイヌナズナの胚軸の成長阻害、アントシアニン蓄積、CHSの発現などに影響が表れることが知られている。そこでスクロースの量の違いによる影響も調べた。

しかしながら、いずれの実験においても一貫した、統計的に意味のある磁場応答は検出されなかった。従って、クリプトクロムが媒介となる植物生長における磁場応答について肯定的な結論を導き出すことはできなかった。従って鳥の網膜において提唱されているクリプトクロムによる地球磁場の感知のしくみを、植物の場合にも当てはめて考えることは難しいかもしれない。

ただ植物における磁場応答は研究例が数少なく議論の余地も多いのが現状である。先行研究の報告者とは独立して磁場をコントロールしながら青色光を与えるという手間のかかる実験装置を用意し、再現性の確認を試みた報告自体は貴重な情報であろう。

 

興味をもたれた方は、是非ご来聴ください。  進藤 裕美