2009年度前期 第5回 細胞生物学セミナー
日時:6月16日 (火) 17:00~
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
国際宇宙ステーション 日本実験棟「きぼう」での植物実験
Space Seed
~筑波宇宙センターとケネディ宇宙センターでの播種作業を終えて~
植物は動物のように動き回ることができません。そのため、おかれた環境の変化に対してその生活環をいかにうまく順応させるかが生存の鍵を握っています。陸上植物は地球上で常にほぼ一定の大きさで存在する1 gの重力環境下において生活環を全うできるように進化してきました。地球上の重力環境が植物の生活環に与える影響についてはまだ明らかになっていないことが多く、重力環境が植物の生活環に与える影響を調べることは陸上植物の進化を知る上で重要です。
植物の生活環は、体を大きく強固にする栄養生長と花を咲かせ種をつける生殖生長とに大きく分けられます。当研究室では遠心機を用いて1 gより大きな重力環境(過重力環境)を実現し、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて植物の栄養生長や生殖生長に与える影響について研究してきました。それにより、過重力環境下で生育したシロイヌナズナの花茎は太く短く生長し、リグニン含量が増加することや、また、シロイヌナズナのマイクロアレイを用いて22000個の遺伝子の発現を一気に調べるトランスクリプトーム解析を行い、過重力により細胞壁形成が遺伝子レベルで調節されていることが明らかになりました(Tamaoki et al.2009)。
一方で植物の生活環に与える重力の影響について地球上での実験の成果を検証し、また未知の影響を探るためには、長期間にわたる微小重力環境(μg)での実験が必要となります。そこで私たちは、富山大学客員教授・神阪盛一郎先生の指導のもとで、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の中で、ほぼ全自動で種子の状態から花を咲かせ種をとるまでシロイヌナズナを育てることをめざしました。そしてそのための装置の開発には、研究室の先生や院生、学生が一丸となって地上実験を繰り返し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)やさまざまな方々と協力して10年近く前から取り組んできました。プロジェクトの名前は「Space Seed」。このプロジェクトでは、種子が発芽し、花茎が生長し、花が咲き、莢ができて種子が実るまでの生活環を、植物が宇宙で全うできるかをまず経時観察したあと、植物を地上まで降ろして解析します。準備してきた装置は2009年8月いよいよアメリカのケネディ宇宙センターからスペースシャトルに載せて打ち上げられます。今回、私はその装置にシロイヌナズナの種子を播種する作業を担当しました。播種作業はJAXAの筑波宇宙センターで行い、アメリカ輸送後の確認をケネディ宇宙センターにあるNASA施設内で行いました。
この貴重な経験について、写真を踏まえてお話したいと思います。興味を持たれた方は、是非ご来聴ください。
図1 植物実験ユニット(PEU) 図2 栽培容器内の様子 図3 シャトル組立工場
唐原研究室 岡本 絵美