2009年度後期  第1回  細胞生物学セミナー 日時:929日 (火) 1700

場所:総合研究棟6階  クリエーションルーム

A high-resolution root spatiotemporal map reveals

dominant expression patterns

Brady, S. M., Orlando, D. A., Lee, J. Y., Wang, J. Y., Koch, J., Dinneny, J. R., Mace, D., Ohler, U., Benfey, P. N.  

Science. 318. :801-806. (2007)

優勢な発現パターンを明らかにする高解像度な根の時間的・空間的なマップ

 植物の発達制御における転写プログラムは、時間的・空間的に精巧にコントロールされている。発達のプログラムを明らかにすることは、細胞や組織のアイデンティティの獲得を理解するために必要である。シロイヌナズナの根の細胞組織は15の細胞タイプから成り、これらの細胞タイプは静止中心(QC)から起こり、根は放射軸に沿って旋回性に対称な組織化を示す。また、これらの細胞は長軸に沿ってそれぞれに分裂・伸長・分化を経験する。新しい細胞は根端で生まれ、細胞の発生時間は根の長軸に沿ってたどることができる。

根のこのような性質を活かし先行研究では、5種の緑色蛍光タンパク質(GFP)でマークした蛍光標識細胞集団の選抜とマイクロアレイ解析とを組み合わせ、根の細胞集団を3つの発達ゾーンと5つの組織に分けて発現プロファイルを作成した。しかし、この方法ではすべての細胞タイプや器官内での発生ゾーンのプロファイルを正確に記述することはできなかった。そこで本研究では以前の解析で用いた蛍光標識細胞選別解析方法に、8種の新しいGFP蛍光標識細胞集団の発現プロファイルと既に報告されている11の実験結果を加え、19GFP蛍光標識細胞集団の発現プロファイルを用いることとした。それらより、シロイヌナズナの一本の根内の発生時間に着目して設定した、高解像度のマイクロアレイ発現プロファイルを作成し、根のほとんどすべての細胞タイプや器官の特性を網羅した包括的な発現マップを著者らは本論文で報告する。

根の個々の細胞タイプの間での有意な発現の差を決定するためにミックスモデルANOVA(分散分析)を使った。その結果例えば、以前の解釈に反して維管束の細胞タイプで濃縮された遺伝子数が最も高いということがわかった。コンピューターによるパイプライン処理により細胞タイプによる優勢な発現パターンを同定し、異なる細胞タイプの間で類似の転写パターンを持つことを示した。根の長軸方向に沿った優勢な発現パターンは、発達ゾーンにおける発現パターンと密接な関係はなく、多くの場合軸に沿った発現変動を示した。これらの転写プロファイルを組み合わせる方法により、時間的および空間的にシロイヌナズナの根の発達を定義するプログラムが転写の面から見て豊かで複雑であるということが明らかになった。

 本研究により得られた高解像度データセットは、今後、他の多細胞生物における器官発達の時間的・空間的な転写プログラムの複雑さを明らかにするために役立ち、比較することができるだろう。

 

興味を持たれた方は、是非ご来聴ください。  岡本 絵美