2009年前期 第3回 細胞生物学セミナー

日時:6月2日(火)17:00~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

 

Electromagnetic fields (900 MHz) evoke consistent molecular responses in tomato plants

Roux, D., Vian, A., Girard, S., Bonnet, P., Paladian, F., Davies, E., Lodoigt, G.

(2006)

Physiol. Plant. 128: 283-288

 

900 MHzの電磁場はトマト植物の一貫した分子反応を引き起こす

 

近年の無線通信技術の発展と利用増加により、人間を含む生物組織に対し、高周波電磁場の危険な影響があるかもしれないという疑いが生じた。しかし、一般的に生物に対する電磁場の影響に関する研究については、特に疫学調査の場合などに特徴的であるが、心理学的なパラメーターを適切に評価することが困難なため、明白な結果はあまり得られていないという問題がある。

短い振幅(5 V/m)の高周波電磁場(900 MHz)にトマトを短期間曝露(10分間)した場合に、初期の分子反応が引き起こされるのか否か、ということを調べることに本研究の目的をおいた。実験では、均一な電磁場が得られるモード攪拌電磁波残響室において電磁場刺激を10分間、5 V/m900 MHzの周波数で行い、ストレス応答に関わると考えられる、カルモジュリンN6、プロテアーゼインヒビターpin2、葉緑体mRNA結合タンパク質それぞれをコードする3つの遺伝子の発現量変化を調べた。コントロール実験では、電磁場曝露を防ぐために、アルミニウムホイルに覆われた重合体メッシュで周囲を囲んだ培養室に植物体を置いた。

その結果、全ての遺伝子において、遮蔽した植物と比べて電磁場に曝露した植物は、電磁場曝露15分後では発現量が増え、30分後では最初の値まで減少し、60分後では再び増加していた。このように遺伝子発現の変化に2相性の反応が見られたことから、置かれた電磁場に対する応答において異なるシグナルが存在することが示唆された。

また、dose response 反応が見られるか否かを調べるため、強さ(振幅)と曝露時間を変えて行った。電磁場の曝露時間を10分から2分に減少させて行ったところ、遺伝子発現の抑制が起きたが、電磁場の振幅を5 V/mから40 V/mにして行った実験では、両者の間に有意差は見られなかった。これらのことから、高周波電磁場に対する植物の応答は活動電位や変動電位とも関連している全か無か的なものであることを示唆している。これまでに電磁場がイオンなど電荷を持つ化学種の動きに影響を与えることが示唆されている。本研究においてカルモジュリンの遺伝子発現量の変化が見られたことから、細胞質や細胞膜付近のカルシウムイオン濃度の変化が、電磁場刺激への植物の初期応答に関わる可能性が考えられる。

 

興味をもたれた方は、是非ご参加下さい。  進藤裕美