2010年前期 第2回 細胞生物学セミナー

日時:4月27日(火)17:00 ~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

 

Quantitative phase tomography of Arabidopsis seeds reveals intercellular void network

Cloetens, P., Mache, R., Schlenker, M., Mache, L, S.(2006)

Proc. Nati. Acad. Sci. USA 39:14626-14630

 

シロイヌナズナの種子の定量的位相トモグラフィーにより明らかにされた

細胞間隙ネットワーク

 発芽とはすなわち、乾燥種子に水分が吸収され幼根が種皮を破るまでの一連の過程のことである。発芽に伴う水分の吸収により、まずミトコンドリアによる呼吸が再開する。この時種子において、初めての酸素消費量の上昇が起きる。そして、酸素消費量は発芽終了時まで再び下降の一途をたどる。また、種皮はその透過性がガス交換に対して強力な障壁となっている。そのため、発芽開始時に必要な酸素が、種子内において即時利用可能でなければいけないことになる。この酸素は、種子内にその源を発するものか、吸水時に流入した水に含まれていたものであると考えられるが、成熟種子内の内因性酸素についての報告はない。というのも、種皮の剛性が測定の妨げになるからである。しかし一方で、種子内には蓄えられた酸素が存在することが示唆されている。このことより、動物の循環系のように特化された酸素循環系を持たない植物という生物が、いかに酸素を種子内に蓄積し、また循環させているのかという疑問が生じる。

この質問に答えを出す上で、成熟した種子の微細構造について知ることは必須である。通常、種子の組織学は光学顕微鏡か電子顕微鏡を用いて、近接した領域の連続した切片を観察することに基づいている。対して今回は、切断や固定、染色により組織を犯すことなく細胞間隙をよりよい形で視覚化することができるX線トモグラフィー技術をシロイヌナズナの成熟種子に用いた。この技術を用いて、三次元像の再構築による、種子全体像の観察、高解像度で細胞単位での観察、また、種子内の間隙ネットワーク像を構築することができた。結果として胚軸では、観察された多くの縦につながった空気チャンネル同士は連絡を持っていた。このようにして胚軸の皮層において全体的につながった空気ネットワークが十字路を造っていることが確認された。また、子葉組織においても、高倍率では細胞角隅の間隙同士もやはりつながりを持っていることが確認された。

細胞の角隅の構造と組成は組織によって違い、植物の発生段階でもバリエーションに富んでいる。例えば、原生木部においてはグリシンに富んだタンパク質に満たされており、胚軸ならプロリンに富んだタンパク質、木部の細胞の間ならリグニンに満たされている。今回のトモグラフィーによる観察は乾燥種子において行われた。細胞角隅において、細胞間隙を生み出す主要なエネルギーとなる膨圧のない乾燥種子内においても、細胞の角隅において間隙が観察されたことにより、シロイヌナズナ種子内の空気間隙ネットワークは、胚内で簡単なガス交換の輸送系となっており、発芽時に必要な酸素を蓄積するためのスペースになっているのではないかと考えられる。

 

 

興味をもたれた方は、是非ご参加ください。

坂東 理史