2010年度 前期第3回 細胞生物学セミナー
日時:5月18日(火) 17:00~
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
Salt tolerance, salt accumulation, and ionic homeostasis in an epidermal bladder-cell-less mutant of the common ice plant Mesembryanthemum crystallinum
Agarie, S., Shimoda, T., Shimizu,Y., Baumann, K.,Sunagawa,H.,
Kondo, A., Ueno, O., Nakahara, T., Nose, A., Cushman C.J.(2007)
J. Exp. Bot., 58: 1957–1967.
ブラッダー細胞を欠失したアイスプラントの変異体における耐塩性、塩類蓄積、
またイオンホメオスタシス
塩生植物であるアイスプラントの表皮は、ブラッダー細胞 (Epidermal Bladder Cell: EBC)と呼ばれる特殊化した嚢状の細胞によって覆われている。ブラッダー細胞は、高塩分または水不足の条件下で生き残るために、塩分または水の貯蔵器官として役立っていると考えられている。しかしながら、アイスプラントの耐塩性におけるブラッダー細胞の寄与については正確に理解されてはいない。そこで筆者らは高速中性子照射により突然変異体を誘発することで、ブラッダー細胞を欠いたアイスプラントの変異体を単離した。光学顕微鏡および電子顕微鏡観察により、この変異体は葉と茎の表面でブラッダー細胞を欠いていることが明らかになった。変異体の地上部の乾燥重量増加は400mM NaClで3週間生育した野生型のほとんど半分であった。また、変異体においては、野生株と比べて、葉の多肉化の程度、葉や茎の水分の含有量が減少していることが示された。400mM NaClの下で2週間育てた場合、野生型の地上部組織においては、ナトリウムイオンと塩化物イオンの含有量が、変異体よりも約1.5倍高かった。高塩分ストレス条件下で特に、光合成活性が高い葉においては、ナトリウムイオンと塩化物イオンがブラッダー細胞に分配されることにより、変異体の葉組織内よりも、野生型の葉組織内の方がそれらのイオン濃度は低いという結果になった。組織におけるカリウム、硝酸、リン酸などのイオン含有量は、NaClが組織へ取り込まれることに従って野生型と変異体の両方において減少したが、ナトリウムイオン/カリウムイオンと塩化物イオン/ 硝酸イオン含有量の比の値は野生株の葉と茎組織においてのみ維持された。変異体においては、種子さや、種子数、種子の重さの平均によって判断される、塩分ストレス下での植物収穫量が、有意に低下した。これらの結果は、光合成が活発に行われる組織内におけるホメオスタシスの維持とイオン隔離による耐塩性や、貯水する場所として機能することによる多肉化にブラッダー細胞が寄与することを明確に示している。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 岩田 伊代