2010年前期 第3回 細胞生物学セミナー

日時:525日(火) 1700

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

 

Gravity-induced modifications to development in hypocotyls of Arabidopsis tubulin mutants

 

Matsumoto, S., Kumasaki, S., Kouichi Soga, K., Wakabayashi, K., Hashimoto, T., Hoson, T.2009

Plant Physiol. 152: 918–926.

 

シロイヌナズナのチューブリン変異体の胚軸において重力によって誘発される発達の変化

 

高等植物器官において細胞表層微小管は、細胞の伸長やその方向を決定づけるなど、形態形成に関して必須の役割を持っている。植物細胞が異方性の成長をするために細胞表層微小管が果たす役割は薬理学的な研究とシロイヌナズナの変異体を用いた実験によって実証されている。一方、過重力条件下において植物体は短く、太くなる(Soga et al., 2006)ことなどが報告されており、重力も植物細胞が異方的な形に成長することや植物体の形を決定する環境要因の一つであるといえる。

本研究においては、茎において重力により誘発される発達変化における細胞表層微小管の役割を明らかにすることを目的とした。本実験では、1 gと過重力(300 g)の条件下で栽培した微小管構成タンパク質であるチューブリン変異体tua3tua4tua6を用いて、胚軸における形態的な成長の変化、およびそれらにおける細胞表層微小管の配列の配向について研究を行った。

その結果、チューブリン変異体の胚軸は、1 g条件下では野生型と比較すると短く太くなり、過重力条件下(300 g)では伸長がさらに抑制された。チューブリン変異体の胚軸は、左巻きまたは右巻きのねじれた成長を1 gで起こし、ねじれの角度は過重力条件下で増大した。野生型の胚軸の表皮細胞では、過重力は短軸方向から長軸方向へ細胞表層微小管の再配向を誘発した。とくにtua6においては長軸方向の細胞の割合は1 gで増加し、過重力によって、さらに増加がした。そのねじれの表現型は最も上部から1012細胞で最も明らかであり、細胞表層微小管の再配向が短軸から長軸への方向で起こった。左巻きらせんに成長した変異体(tua3tua4)は右巻きの微小管配列を持ち、一方で右巻きの変異体(tua6)は左巻きの微小管配列を持っており、表皮細胞の縦列の角度と細胞表層微小管の配列に深い相関関係があった。

また機械刺激感受性のイオンチャネル(機械受容器)の阻害剤であるガドリニウムイオンを用いて、ねじれ成長と、チューブリン変異体での細胞表層微小管配列の配向における機械受容器の関連の有無を調べた。ガドリニウムイオンは1 g300 gの両方の条件下でチューブリン変異体でのねじれた表現型を抑制し、チューブリン変異体の微小管配列は重力の値に関係なく、ガドリニウム処理によってさらに短軸方向に向けられた。これより、重力に抗して通常の成長を維持する際にも細胞表層微小管が必須な役割を果たすことが考えられ、機械受容器が形態学的な変化および1 gと過重力で起きる微小管配列の配向に関与することを示唆された。

 

興味が持たれた方は、ぜひともご参加ください。 山口 駿