2010年度 前期第6回 細胞生物学セミナー
日時:6月8日(火) 17:00〜
場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
Ethylene
is an endogenous stimulator of cell division in the cambial meristem of Populus
Love, J., Bjӧrklund, S., Vahala, J., Hertzberg, M., Kangasjӓrvi, J., and Sundberg, B(2008)
Proc. Natl. Acad. Sci.
USA, 106: 5984~5989
エチレンはポプラの形成層分裂組織における細胞分裂の内在性刺激装置である。
維管束形成層は並層分裂によって二次木部や師部を産生する分裂組織であり、樹における茎の放射方向の成長や木質産生において重要な役割を果たす。形成層が幹に沿って生長する速度は、葉の現存量と樹冠構造に相関している。また重要なことに、この形成層の内在的な制御に加え、風や傾きによって引き起こされる機械的なあるいは重力による負荷といった環境要因に強い影響を受ける。植物は風による破損から茎を守るために放射方向の成長の増加を誘発する。一方、静的な傾きによって双子葉類被子植物では引っ張りあて材(TW)として知られているような局在的な成長応答が起こる。TWは傾いた幹の上側に形成され、独特な非対称成長をし、幹の位置を矯正する役割がある。加えて著しい形成層の細胞分裂によって、TWは解剖学的形質が変化し、内側にはセルロースが豊富なゼラチン状の二次細胞壁層が繊維によって形成される。
エチレン処理実験によってこの揮発性の植物ホルモンが成長の阻害と刺激の両方の働きをすることが明らかにされた。1‐アミノシクロプロパン‐1‐カルボン酸塩(ACC)シンターゼ(ACS)、ACCオキシダーゼ(ACO)を経由してできたS-アデノシルメチオニンから作られたエチレンは、植物組織が環境からの様々な刺激に反応するための引き金となっている。これまでエチレンの栄養生長における機能の概念は主に一次組織内での細胞増殖に関連していた。しかしながら、非対称性のACO誘発によってTW形成下ではエチレンの生合成が増加することや、エチレン処理が木本や草本の形成層成長を促すことが知られている。加えて、エチレンが潜在的に細胞分裂を促進する役割を果たしていることを支持する次のような観察もある。つまり、外から与えたエチレンがキュウリの胚軸の核内倍加や深水稲における介在性分裂組織の成長を刺激したことや、シロイヌナズナのエチレン過剰産生変異体であるeto1は根の静止中心で異常な細胞分裂を示したことなどである。しかしながら、薬理学的、遺伝子導入あるいは変異体からのアプローチによってエチレン恒常性を人工的に操作する実験では、ホルモンの異常な区画化や濃度の影響を受け、それらの実験によって得られたエチレンの機能が自然な条件下でも示されることを立証することができない。従って、内在性エチレンと生長点における成長の刺激との因果関係を決定的に裏付ける根拠が欠けていた。内在性エチレンの機能を証明するために最も魅力的なアプローチはエチレン感受を阻害することである。エチレンは膜結合型の受容体の仲間によって認知される。最初に同定された受容体であるETHYLENE RESPONSE 1は、黄化したシロイヌナズナの実生中の表現型に異常なトリプル・レスポンスを起こす個体から選別した変異体によって明らかにされた。etr1変異体はエチレンが結合する受容体を失ったうえで、変異遺伝子が優性であるがゆえに、植物にエチレン非感受性があたえられたものである。樹木を含め、変異体のスクリーニングが容易でない種では、シロイヌナズナetr1-1突然変異遺伝子の異種発現はエチレン非感受性植物を作成し内在性エチレン機能を調査するためによく用いられてきた。
著者らは形質転換技術を用い、エチレンの過剰産生や非感受性のポプラ属の樹を作出した。実験にはエチレンの阻害剤として感受される1-メチルシクロプロペン(1-MCP)を使い行った。実験の結果、エチレン受容体の働きを通してエチレンが形成層の成長を促進させることを証明した。またこれにより、分裂組織の成長すなわち木部の形成と内在的なエチレンが因果関係を持つことを証明した。
ご興味を持たれた方は是非ご来聴下さい。 山本 隆史