2010年前期 第7回生物学セミナー

日時:615日 1700

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

A developmental framework for endodermal differentiation and polarity

Alassimone, J., Naseer, S., Geldner, N. (2010)

Proc. Nati. Acad. Sci. USA, 107: 5214–5219.

 

内皮の分化と極性のための発達の枠組み

 

 内皮は高等植物の根において共通した組織であり、水や養分の吸収といった根の働きを支える上で、非常に重要な細胞層である。内皮には特殊化した細胞壁が線状に並んだカスパリー線が存在し、隣接する細胞同士を強固に結合することで、これを挟んでアポプラストを内側と外側に分け隔てている。内皮の働きや構造については多くの研究結果が報告されているが、分化の過程についての研究はほとんど報告されておらず、いつ・どのようにして内皮細胞が分化するかは未だによくわかっていない。そこで本研究では、シロイヌナズナにおけるマーカーを使った内皮の極性の分析を確立することを目的とした。

 今回の研究では走査型共焦点レーザ顕微鏡を用いて、PI染色液、蛍光タンパク質を利用し、シロイヌナズナのカスパリー線、細胞壁、細胞膜を視覚化することで細胞の極性を調査した。その結果、いくつかの輸送体が極性マーカーの候補として挙がった。マーカーの中には発生段階によって極性が異なるものも存在し、その極性の差異が分化につながるものと考えられる。また、BOR1およびNIP5-1を用いた分析により、内皮に発現する極性は胚形成初期に確立されることも明らかになり、前維管束が分裂により形成されるときに、極性誘導が確立することが示唆された。

 極性を持ったアクチンの蓄積は、多くの異なった細胞で極性の確立に関わっていることが知られている。そこで、内皮の極性とカスパリー線の形成に関わる細胞膜のサブドメイン確立の細胞学的根拠を調査するために、アクチン細胞骨格に特定の配置が見られるか否か調べた。カスパリー線以外の細胞膜ドメインやカスパリー線における膜ドメイン(CSD)の領域にむけて、ミクロフィラメントの特別な配列や明白な蓄積は観察されなかった。またアクチン細胞骨格や小胞輸送がCSDの確立に必要であるか否かを調査するために、アクチン重合阻害剤や輸送阻害剤 Brefeldin A で処理し、CSDにおける YFP-NPSN12局在の消失が観察された位置の、伸長開始位置(内皮細胞の長さが幅の2倍の長さになった位置とした)からの細胞数を定量化した。もし未分化の細胞が新たなCSDを形成しなかったならば、伸長開始位置からCSDまでの細胞数は多くなるはずであるが、その細胞数はこれらの阻害剤によっても変化しなかった。したがって、アクチン細胞骨格はCSDの構築には必要ないことが示唆された。

近年、分裂組織の大きさと伸長度合いを決定するホルモンと転写ネットワークが解析されるようになってきが、分化についてはそれほど知られていない。内皮の機能に大きく関連しているカスパリー線形成と内皮細胞の極性を理解しあるいは操作することで、どのようにして植物が土壌からの物質を取捨選択するのか、様々な生物的あるいは非生物的ストレスに直面した時にどのようにして植物が統合性と恒常性を維持するかをもっと詳しく知ることができるだろう。

 

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください

荒内 亮輔