2010年度 前期第8回 細胞生物学セミナー

日時:622日(火) 17:00

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Aeranchyma formation in the wetland plant Juncus effusus

is independent of ethylene

Visser, E., and Bögemann, G.,(2006)

New Phytol. 171, 305-314.

 

湿地性植物イグサの通気組織形成にエチレンは関与しない

 

冠水された植物の根は、一般的にシュートと根の間でガス拡散を可能にする通気組織を形成する。環境応答により通気組織形成がされるメカニズムが最近の研究でわかってきている。トウモロコシにおいては、低酸素などのストレスに応答したエチレンが、プログラム細胞死(PCD)を制御・誘発することがわかっている。エチレンは外部環境が悪化したとき(冠水・低酸素・土壌圧縮作用・栄養失調など)に放出される重要な植物ホルモンで、細胞伸長にも影響を及ぼす。Pierikら(2006)はシロイヌナズナなどの野生型とエチレン非感受性変異体を用いて、葉の形状などの植物の基本的な構造の形成はエチレンに影響されず、エチレンにより仲介されるPCDは特異的に拡がっていくことを示した。

一方で、イネなどの水生植物は、冠水していない状況であっても常に通気組織を形成する。イネは冠水の程度によって、通気組織の量が変化することがわかっている。JustinArmstrong1991)は複数のイネの栽培品種を用いて、冠水に応じて形成される誘導的な通気組織はエチレンの作用によることを示す一方で、恒常的な通気組織においてエチレンがどのような役割を持つかは未だ議論の余地があるとしている。

これまで通気組織の研究は、主にイネとトウモロコシで行われていたが、湿地性植物であるイグサ(Juncus effusus)は特に高い通気組織形成率を示すことが分かっている。そこで、本論文はイグサの恒常的な通気組織の形成におけるエチレンの働きを明らかにすることを目的とした。

イグサとトウモロコシをエチレンおよびエチレン阻害剤で処理し、通気組織形成率を求めた。高濃度のエチレンおよびエチレン阻害剤で処理した場合、どちらの場合でもイグサの根の通気組織に差はなかった。これとは対照的に、トウモロコシの通気組織の形成はエチレン作用阻害剤がない限り、エチレンによって促進されていた。同様に、イグサの根の伸長はエチレンに対して感受性が悪く、トウモロコシと相反する結果を示した。これらのデータから、イグサの通気組織は、トウモロコシの誘導的な通気組織とは対照的に、エチレンによる顕著な制御を受けないことが言える。

 

 

興味を持たれた方は、是非ご参加ください。  雪吉 健太