2010年度 前期第5回 細胞生物学セミナー

日時:629 () 1700

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Plastid movement in statocytes of the ARG1 (Altered Response to Gravity) mutant

Kumar, N., Stevens, M., and Kiss, J. (2008)

American Journal of Botany 95(2): 177–184. 2008.

 

ARG1(Altered Response to Gravity)の変異体におけるプラスチドの動き

 

植物は周囲の環境中の様々な刺激を感受している。その刺激には光や風、水、気温、重力などの非生物的な要因が含まれる。それら外界の刺激に対する反応の結果として、様々な重要な代謝活動が植物細胞内で起きる。重力は植物にとって重要な環境要因の一つであり、植物の重力に反応する植物の能力は成長のために重要である。具体的な反応としての重力屈性は、重力感知・シグナル伝達・器官の応答という3つの段階を経る。重力感知、シグナル伝達の両方において、細胞骨格系は沈降するアミロプラストと相互作用していると推測されている。アミロプラストはモータータンパク質経由でアクチンフィラメントに付着していることが、宇宙実験において示唆されており、細胞骨格系を基盤とした重力情報の伝達を説明するために2つのモデル、アクチン係留モデルとテンセグリティーモデルが提唱されている。

筆者らはシグナル伝達の細胞内機構に注目した。重力屈性の細胞内機構で鍵となるのはARG1(altered response to gravity)タンパク質である。ARG1は平衡細胞において、重力に誘導される細胞質アルカリ化およびオーキシンの側方輸送を調節すると考えられている表在性膜タンパク質である。本研究において、筆者らはarg1-2変異体を用いて、アミロプラストの移動が重力屈性の初期段階でアクチン細胞骨格系と関係しているという仮説を検証した。

重力屈性におけるARG1の役割をより特徴づけるために、明所・暗所それぞれで育てたarg1-2と野生型を再配向した後、胚軸、根の重力を感知する内皮細胞でのプラスチドの動きを光学顕微鏡で観察した。光顕観察に際しては凍結固定/凍結置換法を用いた。プラスチド移動の様々な差を数値化するために、細胞の幅の平均値、細胞長の平均値、細胞中心、元々の重力ベクトル、細胞の角、プラスチド中心、再配向後の重力方向にある細胞壁とプラスチドの距離を測定し、最小二乗法を用いて解析した。

その結果、arg1-2変異体の重力屈性は野生型に比べ有意に弱く、かつ反応が遅延していた。また、変異体は成長率も低く、平衡細胞内のプラスチドの速さも遅くなっていた。これらの結果から、ARG1は平衡細胞におけるシグナル伝達カスケードの初期段階で必要な過程であるプラスチドの移動と沈降を弱めることによって、重力屈性に影響を与えることが示唆された。

 

 

 

興味をもたれた方は、是非ご参加ください。 橋裕也