2010年度　後期第2回　細胞生物学セミナー

日時：10月21日(木)　16:00～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Plasticity of Arabidopsis root gravitropism throughout a multidimensional condition space quantified by automated image analysis

Brooks, T. L. D., Miller, N. D., Spalding, E. P. (2010)

Plant Physiol. 152: 206-216

自動画像分析によって定量化された多次元的な条件空間における

シロイヌナズナの根の重力屈性の可塑性

植物の発達は遺伝的に決められている。しかし、植物の発達は外部と内部の影響によっても形成される。また、野生型の反応やその柔軟性に関する知識なしでは突然変異表現型は発見されなかったり、誤解されたりする可能性がある。植物の成長の条件的な性質は可能な限り調べている特定の関係性だけに注目した条件にすることによって取り組まれることが多いが、1つの一般的な条件において研究するだけでは変化の多い環境で植物がどのように成長していくかについての充分な理解は得られない。また、突然変異体のスクリーニングにおいても、様々な条件下における野生型の反応の柔軟性に関する知識なしでは、突然変異表現型は発見されなかったり、誤解されたりする可能性がある。したがって複数条件の影響について、それぞれの条件における反応のよりよい評価を得ることが必要である。オートメーション化されたデジタル画像取得とそれのコンピュータ分析により、広範囲かつ詳細な植物の成長発達の研究を可能にすると考えられる。そこで、簡単に開始でき、反応がはやく、先端の角度を直接測定することで定量化できる根の重力屈性を筆者らは対象とし実験を試みた。植物の重力屈性においては、重力方向に対する向きを再配向させた後には、根冠のコルメラ細胞内のアミロプラストが新しい低位置側へと沈降し、それによって急速なイオンの流れが起こり、水素イオンやその他のイオンの濃度勾配が生じる。その結果、オーキシン排出促進タンパク質が再分配されオーキシンの濃度勾配が生じ、それにしたがって根の屈曲が起きる。

今回の研究では野生型のシロイヌナズナの根の重力屈性において、自動化された画像取得およびその分析を試みた。コンピューター群に制御されたCCDカメラで高解像度画像を取得し、専用の画像分析アルゴリズムによって先端角度と成長速度の経時変化を測定した。実験は3種に分けた苗齢、4種に分けた種子の大きさ、2種類の成育培地組成という条件を組み合わせることで形成された条件空間で1,216回試行した。コンピュータ分析には主成分分析による次元縮小、K平均法による分類、ウェーブレットコンボリューションによる微分を使った。得られたデータからはそれぞれの条件空間内で別々の反応パターンが見られた。

この多次元的な解析は、重力に対する刺激・応答モデルをより包括的に特徴付けするために、重力屈性に対する、各種条件の異なる依存関係の強さを定量化するように設計された。条件ごとに成長速度と先端の振幅率との間の関係性を特徴付けることにより、重力屈性の多次元の反応空間における解析が可能となり、重力屈性のメカニズムに新しい洞察が得られるだけでなく、一般的な根の可塑性に関する突然変異解析、および特に根の重力屈性の突然変異解析のための概念的な基礎を築いた。この大部分をオートメーション化し、コンピュータを用いたアプローチは一般的な植物発達の研究に対しても有用であると考えられる。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　髙橋裕也