2010年度 第3回 細胞生物学セミナー

日時:10月21日(木) 16:00~

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Epidermal cell death in rice is confined to cells with a

distinct molecular identity and is mediated by ethylene and

H2O2 through an autoamplified signal pathway

Bianka, S., and Margret S.(2009)

The Plant Cell, 21: 184–196,

 

イネ表皮細胞の細胞死は明確な分子的アイデンティティーを持つものに限定され、

エチレンとH2O2を通した伝達経路の自動的な増幅によって仲介される。

 

細胞死は植物の発達において必要不可欠な役割を担っている。雌性配偶体の発達とほぼ同時に始まり、じゅうたん組織においてや、葯で起こる孔辺細胞の分解において、またある種の不和合性の反応において、花の老化においてまで続いていく。種子から植物に成長するまで、植物の発達は制御された細胞死に依存しまた伴う。細胞死は低酸素、重金属、熱、オゾン、強い光など、多数の非生物的なストレスに誘導され引き起こされる。また細胞死にはH2O2などの活性酸素(ROS)を除去する働きもあり、H2O2が細胞死の形成を促進させる可能性が示唆されている。植物における細胞死の重要性は分かっているが、植物内で起こる反応をみることは難しく、詳細なメカニズムは分かっていない。

イネ(Oryza sativa)は水分ストレスに曝されると、茎の節において不定根の発生原基を形成する。茎由来の根の形成により、低酸素ストレスによって空気の運搬経路が失われた際に、酸素の供給が促進される。不定根の成長には、根の原基を覆う表皮細胞の細胞死が先行する。生物的および非生物的なストレス応答の細胞死は、しばしば植物ホルモンに仲介されている。その例としてはエチレン、ジャスモン酸、サリチル酸などがある。不定根の成長と表皮細胞死の両方は、エチレンによって正の調整を受けている。アブシジン酸(ABA)が表皮細胞死に応答して、強いリプレッサーとして働く一方、ジベレリン酸はエチレン誘導性の細胞死を促進させる。表皮細胞は植物の表面に位置するので、簡単に解析でき、生体内で起こる細胞死がどの細胞タイプなのかを検証できる。

よって本研究はイネ表皮細胞を用いて(1)細胞死に関与する遺伝子の発現を明らかにすること、(2)H2O2が細胞死の調節においてどのような役割を持つか調べること、(3)表皮細胞死の間にエチレンとH2O2によって同時制御されるトランスクリプトームを特定することを目的とした。

マイクロアレイ解析の結果、61遺伝子がエチレンとH2O2に同時制御されていることが分かった。特にROS除去に関わるMT2bが下方制御を受けており、変異体を用いた実験でもこの遺伝子が細胞死に関わることが分かった。また、H2O2で処理すると細胞死が促進され、エチレン阻害剤1-MCPを加えてもH2O2依存的な細胞死が抑制されなかったことなどから、H2O2はエチレンの下流で働いていることが分かった。

 

興味を持たれた方は、是非ご参加下さい。 雪吉 健太