2011年後期 第2回 細胞生物学セミナー

日時:111日(火)1700

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

 

Effects of radiofrequency electromagnetic fields on seed germination and root meristematic cells of Allium cepa L.

Tkalec, M., Malaric, K., Pavlica, M., Kozlina, P. B., Cifrek, V. Z. (2009)

Mutation Research 672, 76-81

 

タマネギ種子の発芽と根の分裂組織細胞における高周波電磁場の影響

携帯電話などの高周波照射(RFR)を引き起こす装置の有用性は高まっており、この照射による健康への悪影響の可能性が人々の注意を引き付けている。RFRによる生物学的な影響を報告した研究の多くは、細胞分裂や酵素活性、遺伝子発現、細胞膜透過性、イオン恒常性、及び酸化ストレスや熱ショック応答について記述している。しかしながら、植物におけるRFRの研究はわずかしか報告されておらず、遺伝毒性の影響に関わる情報はほとんどない。ムラサキツユクサにおける唯一の遺伝毒性への影響の研究は、1021 MHzの電磁場(EMFs)曝露後に小核頻度(染色体のダメージを受けた核の頻度で変異原性の指標に用いられる)の増加を観察している。植物は有機化合物や酸素の生産者として生物界では大きな役割を果たしているため、植物におけるRFRの影響評価は非常に重要である。本研究では、有糸分裂異常や染色体異常の観察によく用いられるタマネギの根の分裂組織細胞を使用し、同時にタマネギの根の成長を観察することによって、細胞毒性と遺伝毒性の評価を行った。

タマネギ種子は、周波数400 MHzおよび900 MHz、電磁場強度10 V/m23 V/m41 V/m、および120 V/mを組み合わせた条件に2時間、高周波電磁場(RF-EMFs)曝露を行った。また23 V/mでは4時間のRF-EMFs曝露も行った。

その結果、発芽率と根長についてはどの曝露条件においても有意な差は見られなかった。しかしながら、900 MHz41 V/mまたは120 V/mへの曝露において、有糸分裂指数がコントロールと比較して有意に増加していた。同様に、400 MHz900 MHzの両方の変調磁場おいても、有糸分裂指数の有意な増加が見られた。また、有糸分裂異常と染色体異常を合わせた異常細胞率は、900 MHzでは全ての条件において、400 MHzでは41 V/m120 V/mへの曝露条件において有意な増加が見られた。これらの増加は、電磁場強度や周波数、曝露時間に明らかに依存していた。根の成長は有糸分裂の活性と細胞伸長の両方に依存しているため、発芽率や根長に有意な差が見られなかったと考えられる。全体の細胞数の増加は見られなかったため、有糸分裂指数の増加は分裂前期もしくは分裂中期の遅延の結果であると考えられる。また、RF-EMFsDNAへ直接的なダメージを与える程の十分なエネルギーを持たないため、RFRが誘導した小核はDNAダメージよりむしろ紡錘体の異常があったためと推測される。この紡錘体異常はRFR3日後に見られたため、細胞質ゾルにおけるイオン強度や活性酸素の誘導を介したRFRの間接的な影響であろう。本研究においては、ラギング染色体や分裂後期の乱れ、染色体の粘着性などの染色体異常の増加が見られ、RFRの有糸分裂への影響は有糸分裂紡錘体の異常に起因する可能性が考えられる。

本研究の結果は将来、他の組織におけるRFRの影響の評価、及び人体リスク評価においても役立つであろう。

 

興味を持たれた方は、是非ご参加下さい。進藤裕美