2011年度後期 第5回細胞生物学セミナー
日時:11月22日 17:00~
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
Coordination of plant cell division and
expansion in a simple morphogenetic system
Dupuy,
L., Mackenzie, J., Haseloff, J. (2010)
Proc, Natl, Acad, Sci, USA.,
107, 2711-2716
単純な形態形成システムにおける植物細胞の分裂と伸長の協調
植物の形態形成は、細胞間の連絡が発達する中で生じる遺伝的相互作用と物理的相互作用によって起こる。細胞の増殖と分化の物理的側面は遺伝的に制御されているが、細胞間の機械的相互作用によっても制限されている。植物細胞は半剛体の細胞壁の中で増殖するため、発達する組織の中における最終的な位置に到達するまで自由に移動することができる動物細胞とは異なり、一連の細胞分裂イベントを通じて、れんがのように積み重ねられる。どのような細胞分裂であっても新しい細胞壁が沈着し、その場所に娘細胞の向きや位置は固定される。細胞の分裂・伸・分化における協調的なパターンから組織や器官の最終的な形は決定される。しかし、これらの基礎的な過程において必要な構成要素は徐々に特徴付けされてきたが、それらの空間的・時間的なコントロールに関して、正確にはまだほとんど理解されていなかった。
植物の形態形成のしくみを正確に理解するには、その過程を直接観察することを可能にする、単純な構造をもつ植物を用いることが望ましい。そして形態形成のモデリングには、より正確な細胞の分裂と伸長のモデルが必要であり、そのためには実験における観察と数値的なモデルを調和させることができる実験系が必要である。そこで筆者らは、実験材料として、形態形成の過程の正確な定量化を可能にする解剖学的特色を持つ、顕微鏡観察レベルの淡水緑藻類であるコレオケーテ(Coleocheate
scutata)を用いた。
カルコフローホワイトにより生細胞のまま染色したコレオケーテの細胞壁を、共焦点レーザー顕微鏡により観察し、タイムラプス撮影を行った。得られた画像に対し、分水嶺分割を用いて画像分割を行い細胞の配列を定量的に抽出した。その結果、生試料における細胞の構築および成長の定量化が可能となり、細胞の伸長の割合と膨圧・張力との関係、細胞の分裂面の面積と細胞の形態との関連、細胞の形態(放射方向の長さと接線方向の長さの比)と新たに生じる細胞壁の配向について、単純な生体力学の法則を用いて表すことができた。その法則は、コレオケーテの増殖の形態学的、動的性質を十分に説明しており、形態観察による定量化から、成長時の物理的パラメータを引き出し、形態形成のより正確なモデルの作成が可能であること、および植物細胞の形態により細胞分裂のパターンが決定されている可能性が示唆された。また、この単純な法則は、高等植物の組織の形態形成や、合理的なデザインにも応用できる可能性がある。
興味をもたれた方は、ぜひご参加ください。
栗林 剛正