2011年後期　第8回生物学セミナー

日時：12月13日　16：30～

場所：総合研究棟6階　クリエーションルーム

Water and solute permeabilities of Arabidopsis roots in

relation to the amount and composition of aliphatic suberin

Ranathunge, K., Schreiber, L. (2011)

J. Exp. Bot. 62. 1961–1974

シロイヌナズナの根における水および溶質の透過性と脂肪族スベリンの量および組成との関連性

根は植物の体を地面に固定し、土壌から水と養分を吸収する役割を担っている。吸収された水と養分は、隣接する細胞へ原形質連絡を通して輸送されるシンプラスト輸送と、細胞壁中を経由するアポプラスト輸送によって中心柱へ向かって輸送される。しかし内皮に存在するカスパリー線と細胞膜の外側に疎水性物質であるスベリン層が形成されている二次細胞壁によってアポプラスト輸送がブロックされ、シンプラスト輸送へと切り替わる。このカスパリー線もスベリンを主成分とする構造であり、根でのスベリンの量がトウモロコシでは水の吸収に負に相関し、シロイヌナズナでは栄養分イオンの吸収に負に相関することが先行研究で報告された。これらの結果は、根のスベリン量が水と溶質の透過性と負に相関するという仮説を支持した。しかし、根におけるスベリンの組成および量の変化と水および溶質の透過性の間に直接的に相関するか否かについては、いまだ十分に研究されてはいない。そこで本研究では、シロイヌナズナの野生型とスベリンの量を変化させたスベリン変異体を用いて、疎水性ポリマーの量の変化および質の変化が、水と溶質の透過性に直接的に相関するか否かを調査した。

　シロイヌナズナ野生型(Col8・Col0)と、スベリン量と組成を変化させたスベリン変異体(horst・esb1-1・esb1-2)を用いて、ガスクロマトグラフィーと質量分析によってスベリンの分析をした結果、horst変異体では野生型に比べて脂肪族ポリマーの量が33％低いことが判明した。それとは対照的にesb1-1変異体とesb1-2変異体では、野生型に比べて2倍の量のスベリンが検出された。プレッシャー・プローブを用いてシロイヌナズナの根の透過性を測定した実験により、スベリン減少型変異体のhorst変異体では、水透過性と塩化ナトリウム透過性が野生型で測定したそれぞれの値に比べて著しく増加している事が判明した。このことは、ガスクロマトグラフィーと質量分析によるスベリンの分析で測定された脂肪族スベリンの含量を反映していた。しかしスベリン増加型変異体のesb1-1変異体とesb1-2変異体では、水透過性か塩化ナトリウム透過性のどちらか一方は、野生型の透過性の値以下に減少することがなかった。根のスベリン量が水と溶質の透過性と負に相関するという従来の仮説では、スベリン減少型変異体のhorst変異体では水透過性と塩化ナトリウム透過性が増加し、スベリン増加型変異体のesb1-1変異体とesb1-2変異体では水透過性と塩化ナトリウム透過性が減少するはずである。しかし、esb変異体ではこれらの透過性が必ずしも減少しないという結果となった。このことから、根のスベリン量は水や溶質の透過性に負に相関するという従来の仮説は、常に正しいわけでは無いと結論付けられた。

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください

荒内　亮輔