2011年後期　第9回　細胞生物学セミナー

日時：12月13日（火）16：30 ～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Expression of α-expansin genes during root acclimations

to O2 deficiency in Rumex palustris

Colmer, T. D., Peeters, A. J. M., Wagemaker, C. A. M., Vriezen, W. H.

Ammerlaan, A., Voesenek, L. A. C. J. (2004)

Plant Mol. Biol 56: 423-437

Rumex palustrisの酸素欠乏に対する順応におけるα-エクスパンシン遺伝子の発現

　エクスパンシンは細胞壁を緩めるタンパク質であり、細胞伸長・形態発生・細胞分化に必須のものである。エクスパンシンには、α-エクスパンシン群とβ-エクスパンシン群があり、αは双子葉類、βは単子葉類ではたらくことが知られている。この遺伝子群が大きい事は、植物発生、分化、および非生物学的ストレス応答時におけるエクスパンシン遺伝子の器官・組織・細胞での発現の時間的・空間的な制御を可能にしているという仮説がたてられている。しかしこれまでのエクスパンシンの役割に関する研究はほとんど細胞伸長に関するものであった。湿地性植物であるRumex palustrisは、沈水誘導による下偏成長や葉柄の伸長において、ホルモンや分子レベルでの制御を研究するための双子葉類のモデル実験系を提供する。沈水による葉柄の伸長は細胞伸長による結果であり、これはα-エクスパンシンの発現上昇とも一致する。沈水が誘発する植物の伸長により、植物はシュートが空気に触れている部分を確保している。さらに、この植物では、沈水ストレスにより多くの不定根がつくられる。Rumex palustrisの不定根には、ハチの巣状の離生通気組織が発達する。離生通気組織とは、細胞成長によって細胞間が開き大きく開いた間隙として皮層に形成される通気間隙であり、根の組織のガス交換経路としてはたらく空間である。エクスパンシンは、この不定根原基でもmRNAの発現レベルが高く、また、エクスパンシンは離生通気組織形成時に細胞壁間の分離のプロセスに関わっているのではないかとも考えられている。よって本研究では、�@新たなα-エクスパンシンmRNAを単離すること、�AリアルタイムRT-PCRにより、異なる根型（直根、側根、不定根）でのα-エクスパンシンの発現量や、酸素欠乏ストレス下におけるα-エクスパンシンの発現のパターンを解析すること、�Bin situハイブリダイゼーションによるα-エクスパンシン遺伝子の発現組織の観察を行うこと、を目的とした。

今回、Rumex palustrisから13のα-エクスパンシン遺伝子を単離した、そのうち12遺伝子(RpEXPA7からRpEXPA18まで)は根から単離し、RpEXPA19のみ葉柄から単離した。先行研究(Vriezen et al. 2000)により単離された6遺伝子も含め、これらはコードされたタンパク質レベルにおいて高い相同性が予測されるものであった。単離された遺伝子のうち5遺伝子について行われたリアルタイムRT-PCRにおいては、Rumex palustrisの不定根先端部において通気条件ではRpEXPA18とRpEXPA1において共に他より高い発現が見られたのに対し、沈水下の不定根先端部においてはRpEXPA8の転写物量がRpEXPA1の5倍、RpEXPA18よりも2桁高くなっていた。これはα-エクスパンシン遺伝子群の発現の大きさが、非生物ストレス応答のみならず植物の正常な発生においても、多様な器官や組織における発現の柔軟性を可能にしているという仮説を支持するものである。直根上部の横断面におけるin situハイブリダイゼーションにおいては、α-エクスパンシンの発現を示す色素の発生は、維管束形成層付近において局在がみられた。根の二次成長に付随するものと考えられるエクスパンシンの発現の観察としては、初めてのものである。一方、離生通気組織形成部でのα-エクスパンシンの発現が見られず、α-エクスパンシンが通気組織形成について直接関与していない疑いが浮かび上がる結果となった。

興味をもたれた方は、是非ご参加ください。　坂東理史