2011年度 前期第1回 細胞生物学セミナー
日時:5月17日(火) 17:00~
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
A
rice mutant sensitive to Al toxicity is defective in the
specification
of root outer cell layers
Huang, C. F., Yamaji, N., Nishimura, M., Tajima, S., and Ma, J. F. (2009)
Plant Cell Physiol., 50:
976–985
アルミニウム毒性感受性のイネ変異体においては根の外側細胞層の特異化が不完全である
水と栄養の取り込みと、地面に植物を固定することが根の2つの主要な機能である。しかし、根は乾燥・アルミニウム・重金属・塩分など、土壌中においてさまざまなストレスにさらされているため、有害または有毒な物質を排除したり、水分や栄養、植物ホルモンの土壌溶液への流出を減らさなければならない。イネの根において外側に位置する表皮、外皮、厚壁組織を構成する細胞層は、様々な土壌ストレスに最初に接する部分であるため、それらから根を保護していると考えられてきた。
筆者らはアルミニウム感受性に基づいてc68変異体を分離し、アルミニウムや他の金属に対する耐性における、根の外側の細胞層の役割を調べた。形態学的および組織化学的観察の結果から、c68変異体では、しばしば根の頂端分裂組織に近い領域において表皮の並層分裂パターンに乱れがみられることが明らかになった。変異体においては、側根の根冠が表皮から剥がれにくくなっており、また、表皮細胞は小さく不規則になり、根毛が非常に少なくなった。さらに、一部の外皮細胞は厚壁細胞に変化していた。しかし、内側の細胞層については、野生型と変異体の間では違いは見られなかった。
変異体はアルミニウム非存在下では野生型イネと同様に根が生長したが、アルミニウム存在下では根の伸長が阻害された。多区画からなるボックスを使って根の部位ごとにアルミニウム曝露を行うと、変異体では根端(根の先端から0~5cm)が曝露されると伸長が阻害された。また、モリン染色によって、変異体ではアルミニウムが内側皮層細胞に浸透していることが分かった。さらに、変異体はカドミウムやランタンなど他の金属に対する感受性も持っていた。これらの結果から、根の外側細胞層は、アルミニウムなどの金属の毒性に対して、金属の内部細胞への侵入を防ぐことで根を保護しており、また、根端は根の成熟領域とは異なる物理的バリアーで金属の侵入を防いでいることが示唆された。本研究で得られた変異体のさらなる特徴付けと原因遺伝子のクローニングにより、この遺伝子の表皮と外皮の発達、そして金属耐性における役割に対する理解がさらに深まることが期待される。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。堀田 薫