2011年度 第4回 細胞生物学セミナー

日時:628日(火) 16:30

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

Contrasting dynamics of radial O2-loss barrier induction and aerenchyma formation in rice roots of two lengths

Shiono, K., Ogawa, S., Yamazaki, S., Isoda, H., Fujimura T., Nakazono, M., Colmer, T., 2010

Annals of Botany, 107: 89-99

 

イネの異なる長さの根におけるROLバリア誘導と通気組織形成の対照的な動態

 

本研究はイネ(Oryza sativa)の短い根と長い根の2つの異なる長さのタイプの不定根において、放射方向のO2欠損(Radial O2-Loss = ROL)バリア誘導、および通気組織形成の観察を行った。

多くの水生植物が、通気組織とROLバリアを根で形成する。これにより、根の内部において根端に向かうO2の拡散が促進されることで、冠水環境などの嫌気条件に植物は適応できている。ROLバリア形成は嫌気条件で生育した時に誘導されるが、そのバリア形成の動態と、初期の構造的な変化に関する知識は不明な点が多い。

本研究ではイネの短い根と長い根を材料に、根を囲むシリンダー状のO2 電極とメチレンブルー染色により、ROLバリア誘導を調べた。また、内皮/外皮層の微細構造を、透過電子顕微鏡法(TEM)を用いて観察し、根の横断切片から通気組織形成を調べた。

ROLバリアの形成は、長い不定根では処理してから数時間以内に始まり、24時間以内に完了した。対照的に、短い根では、バリア形成に48時間以上かかった。通気組織の形成が強まるタイミングは、両方の長さの根で同じであった。染色法で得られた結果から、短い根より長い根のほうがバリアの誘導が早いことが分かった。この結果とROLデータの比較から、染色法における明確なROL閾値を求めることが出来た。また、ROLバリア形成は、外皮の周縁側の細胞壁における、新たな高電子密度物質の沈着と関係があることが分かった。組織化学的な染色により、スベリンの沈着が、リグニンの増加に先駆けて増強されることを示した。

以上の結果より、根長はROLバリアの形成に影響するが、通気組織では異なることが分かった。このことから、イネではこれら2つの順化が別々に制御されていることが考えられる。

さらに、スベリンやリグニンと推定される沈着物が組織化学的に検出される前に、ROLバリア誘導が生じていた。その一方で、TEMを用いることで新たな高電子密度の物質が外皮細胞壁で観察できたことから、バリア機能に必要な構造変化が、これまでの報告よりも細かくとらえることができたといえる。

 

 

興味を持たれた方は、是非ご参加下さい。 雪吉 健太