2011年後期 第4回 細胞生物学セミナー

日時:1122日(火)1630

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Cellular dissection of the degradadation pattern of cortical cell death dring aerenchyma formation of rice roots

M, Kawai1., P, K, Samarajeewa., R,A, Barrero., M, Nishiguchi., H, Uchimiya. (1998)

Planta 204: 277-287

イネの根における、通気組織形成時の皮層細胞の分解パターンの詳細な観察

 

プログラム細胞死(PCD)は高等植物の様々な発生過程で観察されてきた。それらの例として、導管細胞の発生や、根冠細胞、花粉発生の持続のためのタペータム細胞の分解、生殖器形成、などのプロセスがある。細胞のPCDは、組織発生の過程上必須のものである。イネなどの耐湿性植物においては、湛水下の根のガス交換経路として、細胞や水分ではなく空気の充てんした空間、すなわち通気組織が形成される。通気組織は離生的、破生的に形成され、破生的通気組織は、細胞溶解により、離生的通気組織は細胞間の間隙として根の皮層に形成される。トウモロコシにおいては、不定根の低酸素下の破生通気組織の発生は、エチレンを通じたシグナル伝達によるPCDであるとJackson(1994)により報告されている。根圏の酸素量の制限が中心柱の無酸素化を引き起こし、中心柱が無酸素になる事がACCの合成酵素レベルを増加させ、ACC合成を誘導する。このACCは、中心柱を囲む少量の酸素の残された皮質に取り込まれ、ACC酸化酵素によってACCが酸化されエチレンに変わることでエチレンが生成され、PCDのシグナルとなる。

筆者らはイネ(Oryza sativa L.cv. Yamahoushi)一次根の破生通気組織に焦点を当て研究を行った。今回筆者らは、イネの皮層細胞の放射方向の列に中心柱側から皮層細胞の外側にかけて17までの番号を振ることで、皮層細胞の位置による、細胞の特徴づけを行い、それぞれの層において、細胞の肥大方向を測定し、細胞崩壊数をかぞえ、ニューラルレッド染色により酸性化された細胞の染色、エバンスブルーによる死細胞の染色を行った。結果として皮層の細胞層のうち、中心部から5番目の細胞層において他の細胞と比べて際立った特徴がみられた。これらを総合し皮層細胞の細胞崩壊パターンについて考察した。皮層細胞は、細胞分裂後、皮層の特異的細胞層において突出した細胞成長を示し、液胞の成長にがおこる。その後、液胞膜の機能の崩壊がおこり、細胞膜崩壊により、細胞崩壊がおこる。このようにして、皮層における最初の細胞崩壊がおこり、その後、崩壊した細胞に放射方向に隣接する細胞において連続して細胞崩壊がおこる。このようにして破生通気組織が形成されていると考えられる。このように秩序立った細胞崩壊がおこる背景には細胞間の原形質輸送による何らかのシグナルが介在していると考えられる。筆者らは、数種類のサイズの分子とフルオレセインイソチオシアネートの結合体を細胞に微量注入することで、皮層の中心部の層から、細胞死が伝達する方向である放射方向に特異的なサイズの分子が移動している事を突き止めた。これは、細胞崩壊シグナルに関する何らかの知見をもたらすものと考えられる。

 

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください。(3年生は特に歓迎します)

坂東理史