2012年度後期　第6回　細胞生物学セミナー

日時：11月27日 (火) 17:00~

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Root apoplastic barriers block Na⁺ transport to shoots in rice

Krishnamurthy, P., Ranathunge, K., Nayak, S., Schreiber, L., Mathew M. K. (2011)

J. Exp. Bot. 62 : 4215–4228

イネの根におけるアポプラストバリアはシュートへのNa⁺の輸送を防ぐ

塩分ストレスが穀物に与える影響は極めて大きく、重要な穀物の一つであるイネは塩分感受性が高い。イネには中心柱へ水や溶質が侵入するのを防ぐ、アポプラストバリアが内皮と外皮の間に存在しているが、多くのNa⁺ がアポプラストバリアを迂回しバイパス流として中心柱に侵入する。今回の実験では、適度な塩分濃度で生育させることによって誘導されるアポプラストバリア強化がNa⁺ 取り込みの減少とイネの生存率に影響するか否かということ、さらにバイパス流に関わる側根の役割について調査した。

　材料として塩分感受性の異なるインディカ米品種として、耐塩性が高いPokkali (Oryza sativa L. cv. Pokkali)と低いIR20(Oryza sativa L. cv. IR20)を用いた。イネは暗所(27 ℃)で3-4日間発芽誘導させ、一カ月後様々な塩分ストレス条件下におきイネの生存率を測定した。また、ストレスを与えたイネの切片におけるカスパリ―線の発達を観察するため、0.1 %(w/v)ベルベリン硫酸塩と0.5 %(w/v)アニリンブルーで染色し、落射蛍光顕微鏡で観察した。さらにイネにおけるバイパス流に対する塩分ストレスの影響を調べるため、アポプラストトレーサーであるPTS (trisodium 3-hydroxy-5,8,10-pyrenetrisulphonate)およびナトリウムイオンのバイパス流量の木部浸出液における測定、アポプラストバリアの生理学的な指標としての水透過性(Lpr)、シュートと根におけるNa⁺ とK⁺ の含有量の合計、側根密度、およびPTSの浸透性の形態学的観察を行った。その結果、対照培地ではIR20の根の方がPokkaliより高いLprを示した。一週間100 mM NaClで処理し馴化させた後では、Lprは両方の栽培品種において著しく減少し、IR20の場合はより顕著であった。対照区におけるナトリウムイオンのバイパス流量は根におけるスベリン含量に反比例していた。シュートにおけるNa⁺の量は全ての条件においてPokkaliよりIR20の方が多かった。2時間200 mM NaCl処理する急性の塩分ストレスを与えた場合の方が、1週間100 mM NaClの塩分ストレスを与えた場合より生存率は低かったが、100 mM NaCl処理後、200 mM NaClで処理した場合、両方の栽培品種において生存率は大きく改善され、非常に健康的であった。また、シュートにおけるNa⁺ の総量は、いずれの品種においても、100 mM NaCl処理における馴化なしで200 mM NaClの急性の塩分ストレスを与えた場合は、馴化させた場合より高くなった。根におけるNa⁺ の総量は全ての条件においてPokkaliよりIR20の方がわずかに多かっただけであったが、200 mM NaClにおける急性な塩分ストレスを与えた場合は有意差が見られた。また、シュートにおけるアポプラストのNa⁺の量はPokkaliの方が少なかった。次に落射蛍光顕微鏡の観察より、根端から20 mmの位置では、対照区においてはカスパリ―線はIR20およびPokkaliの根において、内皮および外皮で観察されず、1週間100 mM NaClの処理を行った栽培品種では発達したカスパリ―線が観察された。これまで側根形成時にアポプラストバリアが破壊される場所がバイパス流に関係すると考えられてきた。実際、皮層内へのPTSの漏れは主根と側根の結合部で起こっていた。また側根形成に関わると考えられるArf8の発現は、Pokkaliにおいて塩分処理時間とともに増加した。しかし、側根密度はいずれの品種においても塩分ストレスによって増加したものの、必ずしもバイパス流量の増加と関係しなかった。

以上より、イネにおいては塩分ストレスによるアポプラストバリアの強化によりNa⁺のバイパス流が低下し、生存率が高めることが示唆された。

興味のある方は、ぜひご参加ください。　　山本　哲平