2012年度後期　第1回　細胞生物学セミナー

日時：10月23日（火）16:30～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Caffeine inhibits callose deposition in the cell plate and the depolymerization of microtubules in the central region of the phragmoplast

Yasuhara, H. (2005)

Plant Cell Physiol. 46 (7) : 1083-1092

カフェインは細胞板におけるカロースの沈着およびフラグモプラスト中央部における微小管の脱重合を阻害する

　植物細胞における細胞分裂の仕組み、特に細胞質分裂の過程は動物細胞とかなり異なっている。植物細胞が分裂期後期後半になると、両極に分離した染色体の間に微小管が円柱状に集まった構造体であるフラグモプラスト （隔膜形成体）が形成される。分裂期終期になると、微小管に沿ってゴルジ体由来の小胞がフラグモプラストの赤道面に集まり、そこで主成分であるカロースの合成を伴う細胞板の形成が行われる。カロースの沈着により細胞板の形成が進行していくと、フラグモプラストの中央部の微小管が消失し細胞板の縁を取り囲むドーナツ状になる。細胞板はドーナツの輪を広げるように発達していき、親細胞の細胞壁に達するとフラグモプラストは消失する。この特徴的な形態変化は、フラグモプラスト中央部の微小管の脱重合によって起こると考えられているが、それらを制御する仕組みは解明されていない。そこで筆者は、植物細胞の細胞質分裂の阻害剤であるカフェインを用いて、フラグモプラスト中央部における微小管の再分布および細胞板におけるカロースの沈着に及ぼす影響を調べ、それらが細胞質分裂の制御にどのように関わっているかについて調査した。

材料にはタバコの培養細胞のBY-2（Nicotiana tabacum ‘Bright Yellow 2’）を用いた。細胞周期の同調はDNAポリメラーゼ阻害剤であるアフィディコリンと微小管重合阻害剤であるプロピザミドによる処理をそれぞれ24 時間および5 時間ずつ行い、培養細胞の細胞周期を分裂期中期で停止させた。カフェイン処理はプロピザミド処理後または同時に行い、カロースを染色するアニリンブルーとDNAを染色するジアミジノフェニルインドール（DAPI）で二重染色し顕微鏡観察を行った。また免疫染色によりフラグモプラストの微小管の観察についても行った。その結果、プロピザミド処理後にカフェイン処理した細胞では未処理の細胞と比べカロースの染色が弱くなっていたが、フラグモプラストの微小管は未処理の細胞と同様にドーナツ状に発達していた。プロピザミド処理時にカフェイン処理した細胞ではカロースはほとんど見られず、フラグモプラストの微小管は中央部に見られた。次に、プロピザミド処理時にカフェイン処理した細胞について処理終了後30 分ごとに観察を行ったところ、未処理の細胞と比べてフラグモプラストの発達が約1 時間遅れていた。さらにプロピザミド処理の2 時間前から処理終了後の間の1 時間ごとにカフェイン処理をした細胞を観察したところ、プロピザミド処理前または最中にカフェイン処理した細胞は細胞板の形成が行われずフラグモプラストの発達も遅れており、その度合いは処理前のものの方が強かった。このことから、フラグモプラストの微小管の脱重合には細胞板におけるカロース沈着が深く関わっており、カフェインは細胞が分裂期に入る前またはその瞬間にカロース沈着を阻害し、それによりフラグモプラスト中央部の微小管の脱重合も阻害していることが示された。

次に、プロピザミド処理後または同時にカフェイン処理した細胞について透過型電子顕微鏡を用いてフラグモプラストの赤道面における小胞の観察を行ったところ、未処理の細胞と比べ両方で小胞の蓄積が中央部に少なく、周縁部に多くみられるという同様の傾向が見られた。また、単離したフラグモプラストにUDP-グルコース存在下でカフェイン処理を行いカロース合成に与える影響を調べたところ、カフェイン処理した細胞と未処理の細胞の両方でフラグモプラストの赤道面において正常にカロース合成が行われていた。このことから、カフェインは小胞の蓄積によるカロースのフラグモプラスト赤道面への移動およびフラグモプラスト赤道面でのカロース合成は阻害せず、生細胞中においてUDP-グルコースなどの必要な基質を減少させたためにカロースの沈着が阻害されたと推測される。

興味を持たれた方は、是非ご参加ください。　　栗林剛正