2012年度後期 第7回 細胞生物学セミナー
日時:12月6日(木) 17:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
Xylem development
and cell wall changes of soybean seedlings grown in space De Micco V., Aronne
G., Joseleau J.P., Reul, K. (2008) Ann.Bot. 101: 661-669
宇宙において生育したダイズ実生における木部発達と細胞壁の変化
植物の進化と陸上進出には、細胞壁の構造と組成の複雑化が伴ってきた。動物の体を支える骨や筋肉と同様に、1G条件下で大気中において重力に抗して直立した植物体を支えるために、細胞壁の化学的・機械的性質の変化をもたらしたと考えられている。本研究では、宇宙で生育したダイズにおいて、木部の解剖学的構造と、子葉、胚軸フックおよび胚軸における導管壁のセルロースミクロフィブリルの配向について調べ、異なる重力環境がこれらの構造に与える影響について考察した。
滅菌したダイズ(Glycine max (L.) Merr. ‘Adzuchi’)種子を、 給水や記録等の全操作が行われる自動生育補助システムに播種し、フォトンM2ミッションにおいて、ソユーズロケットで打ち上げ16日後に地球に帰還させた。この間、地上で同一の対照実験も実施された。発射後4日目に水を注入して種子の発芽を促し、その後実生を5日間暗条件下で生育させ、固定液(40%ホルムアルデヒド:氷酢酸:50%エタノール=5:5:90)を注入し実生の生育を止めた。帰還後、地上対照区のサンプルとともに実生を解剖・樹脂包埋し、子葉・胚軸フック・胚軸の各器官の横断切片を顕微鏡標本にした後、明視野・蛍光顕微鏡および透過 型電子顕微鏡(TEM)下で観察した。サンプルの一部は0.5%トルイジンブルーで染色後、明視野顕微鏡で観察した。未染色の切片はUV励起で落射蛍光顕微鏡で蛍光観察した。子葉・フック・胚軸の葉脈数、木部柱、導管数を計測し、形の丸さに関わる形状係数(shape factor)や真球度などの指標を用いて導管管腔の形状等を数値化した。TEM観察は包埋後超薄切片を過ヨウ素酸-チオカルボヒドラジド-タンパク銀法により多糖類の一部を標識し、さらにセルロースミクロフィブリルを強調する方法を用いて、微細構造を観察した。電子顕微鏡画像をデジタル処理し、ミクロフィブリルやラメラの配置や厚さなどを測定した。明視野および落射蛍光顕微鏡観察の結果、ダイズ実生においてはフックと胚軸における8本の主葉脈はつながって4つの極を形成しており、宇宙実験区と地上対照区の間には導管の平均本数に有意な差は見られなかった。地上対照区に比べ、宇宙実験区のフックにおいては導管管腔の断面積は有意に大きく、他の器官では有意差は見られなかった。また、各器官における導管管腔横断面の形の縦横比(長径と短径の比)、伸長度(一方向への伸び具合)、形態係数、真球度については、縦横比と伸長度については両実験区の間で有意 な差は見られなかったが、膨らみ率(convexity)および形状係数については宇宙実験区においては有意に低下しており、管腔内面の細胞壁形状が滑らかではないことが示唆された。導管壁の厚さに関しては、子葉においてのみ有意差がみられ、宇宙実験区においては地上対照区と比べて有意により薄くなっていた。 TEM観察の結果、地上対照区で形成された子葉と胚軸の導管壁においては、中葉及び一次壁の形成から二次壁を形成し木化を完了するまで全ての導管において、セルロースミクロフィブリルの互いに平行に並び 厚い束になってラメラを形成していることが確認できた。他方、微小重力下で形成された子葉と胚軸の全ての一次導管壁において、セルロースミクロフィブリルは互いに平行ではなく、方向性も無く広がっていた。微小重力下でもミクロフィブリルは互いに分離してはいるものの、地上対照区で生育した場合と比較して、境界が明確ではないラメラを一部では形成していた。そしてミクロフィブリルの配向の乱れにより二つの隣接した細胞間の拡大がもたらされた。一次導管壁のセルロースミクロフィブリル束の太さは、宇宙実験区と地上対照区の間で有意差が確認され、宇宙実験区において細くなっていた。宇宙実験区と地上 対照区いずれにおいても2つかそれ以上のミクロフィブリルは束となってラメラを形成しており、ラメラの厚さは両実験区の間で有意差は見られなかった。しかし、ラメラの厚さの変動係数は宇宙実験区と比べてより地上対照区では小さくなっており、宇宙ではミクロフィブリルの集合様式が安定していない可能性が示唆された。 興味のある方は是非ご参加ください。 筋師洵也