2012年後期　第1回　細胞生物学セミナー

日時：10月23日（火）16：30～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Biometric anatomy of seedlings developed onboard of Foton-M2 in

an automatic system supporting growth

De Micco, V., Aronne, Giovanna. (2008)

Acta Astronautica 62 : 505 – 513

自動生育サポートシステムを搭載したフォトンM2で生育した植物実生の解剖学的解析

自立した宇宙基地において生物再生システムを利用し有人宇宙活動を支えるためには、宇宙環境が植物の生活環に与える影響を、今なお植物科学上の様々な側面から研究する必要がある。実際、宇宙での長期間の任務では、人間にとって、植物は酸素の生成や蒸散による水の循環などの人間の生命維持のためだけではなく、人間の心理にもよい影響を与えるなどの重要な働きがある。宇宙で種子発芽と植物生命を目的とした実験は以前から行われており、宇宙での植物生育における特異的な現象を明らかにするためにも多くの研究が行われているにもかかわらず、いくつかのプロセスはまだ未解明である上、矛盾する結果も得られている。また宇宙における生物再生システムに関する技術的、生物学的なパラメーターの最適条件を明らかにするためにも、地球上での模擬微小重力または宇宙での無重力実験が工学・生物学の両面で実験方法についての検討が未だ必要である。本研究では、欧州宇宙機関の無人宇宙船フォトンM2ミッション（2005/5/31～2005/6/16）において、ダイズを微小重力で自動生育支援サポートシステムによって5日間生育させ、形態学的、解剖学的、細胞学的側面から地上重力条件で育てた対照区と比較した。得られた結果は生物学的側面（地上と宇宙環境における植物の形態調節の意義）と技術的な側面（地上で最適化した生育サポート装置の能力の検証）から考察した。

　ダイズはGlycine max (L.) Merr. “Adzuchi”を用いた。乾燥種子を播種したフライト（宇宙飛行）用生育装置はカザフスタンの発射基地への輸送中は22℃に、フライト中は18-20℃に維持された。フライト後、ハードウェア、材料、パラメーター、手順が同一の対照実験をナポリ大学の研究室で行った。宇宙と地球で生育した実生について、発芽率、胚軸と根の最大直径と長さを計測した。サイズや形態が同じ実生を形態学的、解剖学的解析のために選別し、子葉、胚軸のフック、最大直径を示すために胚軸の領域を切り出した。得られたこれらの部分はデンプンやリグニン、他のフェノール化合物の検出のために光学および落射蛍光顕微鏡観察を行った。子葉に関して、アミロプラストが占める面積とフェノール類の蓄積が占める面積（自家蛍光を示すオルガネラの面積）を無作為に選択した細胞で計測した。細胞の大きさは細胞面積として計測、細胞形状は側面比と形状因子（丸の指標）により表した。フックと胚軸において、アミロプラストが占める面積は細胞をランダムに選択して測定した。

　その結果、種子発芽率は、微小重力下よりも1G下の方が高い数値が得られた。発芽後、実生発達は1G下では急速に起こった。微小重力では実生発達は抑制されていた。微小重力で生育された胚軸および根の直径は1Gよりも小さくなり、長さも同様に短くなっており、これは水不足のためと考えられた。解剖学的解析に関しては、木部発達は微小重力と1Gの両方で通常通り起きていた。フェノール物質の蓄積は宇宙で生育した子葉よりも1G下の方が低かった。胚軸の横断面積については、微小重力下で生育したものは、地上で生育したものよりも高かった。デンプンの含有量に関しては、地上より微小重力下の方が低かった。

　宇宙で生育した子葉と胚軸組織ともにフェノール類の増加を示したことから、微小重力はこれらの物質合成を変化させることが示唆された。宇宙で生育した場合、細胞でフェノール類の含有量が高くなったことから、病原体からの攻撃や傷、放射線などの宇宙における様々なストレスから細胞が保護されやすくなっていることが推測された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　小原　和樹