2012年後期　第2回生物学セミナー

日時：10月30日　17：00～

場所：総合研究棟6階　クリエーションルーム

Casparian strip diffusion barrier in Arabidopsis is made of a lignin polymer without suberin

Naseer, S., Lee, Y., Lapierre,C., Franke, R., Nawrath, C., Geldner, N.(2012)

Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 109: 10101 - 10106

シロイヌナズナにおけるカスパリー線拡散バリアは、スベリンではなくリグニンポリマーによって作られる。

維管束植物の根の内皮において、カスパリー線は細胞壁を環状に取り囲むように形成される。このカスパリー線は動物細胞におけるタイトジャンクションのようなバリアの役割を果たし、選択的に養分の取り込み・病原菌の排除・その他の様々なプロセスに関与すると考えられている。カスパリー線は前述のような重要な役割を果たしているが、実際の化学組成については未だに良く分かっていない。先行研究ではスベリン・リグニン・リグニン類似ポリマー・あるいはそれらの複合によってカスパリー線が形成されていると推測されているが、今までの研究からは実際にどちらのポリマーで構成されているかは明確に判断できていない。その理由として、内皮にのみカスパリー線の環状構造が出現し、続いて内皮細胞の全細胞表面の周囲にスベリン層が出現するために、根全体の分析あるいは単離した内皮組織の分析を行うと、リグニン・スベリンの両ポリマーの存在が確認される。加えて、リグニン化した木部とスベリン化・リグニン化した皮層が内皮に隣接して形成されているため、カスパリー線の分析とこれらの組織を分離する必要がある。先行研究では分離を試みた実験も存在するが、カスパリー線におけるリグニンの検出と同時に一定のスベリンも検出されていた。そこで本研究では、カスパリー線は実際にどのようなポリマーから形成されるか調査した。

　シロイヌナズナの根の細胞壁を染色するために、アポプラストトレーサーとしてヨウ化プロピジウム(PI)を用いて観察した結果、カスパリー線の出現箇所から中心柱側の内側へのPIの侵入がブロックされた。フェノール類で示されるリグニン類化合物の緑色の自家蛍光とスベリンを染色するフルオールイエローの2種類の蛍光を観察し、PIの侵入位置の観察結果を比べたところ緑色の自家蛍光の出現はPIの拡散障壁の位置と一致したが、フルオールイエローの染色はPIの拡散障壁の位置よりも基部側から観察された。このことから、リグニン類のポリマーが初期のカスパリー線構成物質であることが示され、スベリンの関与は支持していない可能性が示唆された。

　次にPIに対するバリアにおけるスベリンの蓄積およびリグニンの蓄積の影響を遺伝子的手法等により調べた。スベリンの蓄積の影響を調べるために、スベリン蓄積を阻害するクチナーゼであるクチクラ破壊因子１(CDEF1)を内皮特異的プロモーターのもとで発現させた。この遺伝子導入系統では、実生の根においてスベリンの染色が完全に欠落していたが、カスパリー線形成への影響は観察されなかった。リグニンの蓄積の影響を調べるために、リグニン生合成を特異的にブロックするためモノリグノール生合成の初期段階で作用するピペロニル酸を処理したところ、根の成長には影響しないが、根端におけるカスパリー線の出現がより基部側に移動していた。しかしスベリン層の形成には影響は観察されなかった。さらに、遺伝学的アプローチにより、モノリグノール生合成を特異的に阻害させた変異体を解析した。生合成を阻害するために十分な多重変異体を作成したところ、発芽と成長が阻害された。しかし、独立した対立遺伝子の3重ないし5重の挿入変異株において、PI拡散バリア形成の遅延が明確に観察された。これらのデータから、シロイヌナズナにおいてはスベリンが初期のカスパリー線の形成には関与しておらず、初期の内皮の拡散バリアはリグニンポリマーで作られることが強く示唆された。

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください

荒内亮輔