2012年度後期 第3回 細胞生物学セミナー
日時：11月6日(火) 17:00～
場所：総合研究棟6階クリエーションルーム
Seed Storage Reserves and Glucosinolates in Brassica rapa L. Grown on the International Space Station
Musgrave, M.E., Kuang, A., Tuominen, L.K., Levine, L.H., Morrow, R.C.
国際宇宙ステーションで生長したアブラナにおける種子の貯蔵物質とグルコシノレート（カラシ油配糖体）
植物は将来、長期間の宇宙飛行で生命維持システムの中心的役割を果たすと考えられている。20-50m2の面積の水耕法で育てる植物により，一人の人間が生きていく上で必要な栄養素を供給できるといわれ、同時に，人間一人分のCO2の除去と必要な酸素の２倍、また必要な水の４倍が再供給される。この役割を果たす植物の能力は多岐にわたる地上実験とモデル化によって確証されたが、微小重力における植物の能力の実際のデータは欠如していた。微小重力における植物の生長に関する非常に多くの課題のために，これらの植物のデータを得ることは困難であり、特に植物栽培容器内での液体の動き、栄養の到達、気体の再供給については装置のデザインにおいて少しずつ改善されていくことが必要であった。地球周回軌道上での装置改善が反復されることで、植物が微小重力下でもよく生育できることが示され、植物栄養の研究が可能になってきた。宇宙飛行においては，ヒトの味覚が変化するため食物の味を薄く感じ，また電離放射線により発がんのリスクが高まる．二次代謝産物であるグルコシノレートは薬味になるとともに抗がん作用が期待されるため，これを持つアブラナ科の野菜は宇宙飛行における作物にふさわしい．しかし宇宙飛行がこの二次代謝に与えるに影響についてはまだ知られていない。そこで本研究で宇宙飛行の環境が植物の発生，生産とグルコシノレートの貯蔵にどのような影響があるかを調査した。
アブラナ（Brassica rapa L. cv. Astroplants)をスペースシャトルAtlantisにより国際宇宙ステーションに運びバイオマス生産システム(BPS)内で育てた。栄養状態や光、CO2濃度、温度、湿度等を制御したBPS容器に10個ずつ4列に播種し、打ち上げの4日前に発芽誘導した。地上対照実験はケネディ宇宙センターの軌道上環境シミュレーター において行われた。受粉は手で行い，39日後に収穫した．試料は軌道上ではグルタルアルデヒドで固定するか凍結した。地上に下ろした後，固定した長角果から胚を切り出し光学・電子顕微鏡観察、および走査型電子顕微鏡(SEM)観察のために試料調製した。グルコシノレートの解析には凍結乾燥された茎からの抽出物を用いた。
解析の結果，まず植物は微小重力でも1 Gでも予期されたように生長した。また長角果のサイズ，長角果ごとの種子の数、葉の可溶性炭水化物およびクロロフィル含有量は宇宙と地上対照の間で異なっていなかった。グルコシノレートには2種類が検出され，そのうち一つの含有量は地上と比べて宇宙で75％増加していた。SEM観察により，地上で得られた種子は概ね早熟性の段階まで達したのに対し、宇宙で得られた種子では広範囲の未熟な発達段階であった．普通より早い発芽が宇宙種子の未成熟な種子で見られた。そして宇宙で得られた種子においては，地上で得られた種子と比べて乾燥重量は半分程度であり，クロロフィル濃度は2倍以上保持し、デンプンと可溶な炭水化物はより多く含んでいた一方で，種子タンパクの蓄積は抑えられていた。
以上より、宇宙で種子の発達が遅れたのは，発生中の種子の周囲における閉ざされた微小環境のガス交換が微小重力により変化したためと考えられた。また植物体でグルコシノレートを最も蓄積するのは種子であることが知られている．宇宙でグルコシノレートの含有量が増加したのは、種子の発達が遅れたために種子に蓄積されるべきグルコシノレートが茎に輸送されたためであるという可能性が考えられる。従って宇宙環境で引き起こされる代謝における変化により，食物としてのアブラナの香りや栄養の質が影響を受けると考えられる．
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 後藤 圭太