2012年前期　第4回　細胞生物学セミナー

日時：11月13日（火）17:00~

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Hypoxia induced non-apoptotic cellular changes during aerenchyma formation

in rice (Oryza sativa L.) roots

Joshi, R., Shukla, A., Mani, S.C., Kumar, P. (2010)

Physiol. Mol. Biol. Plants 16(1) : 99-106

イネ（Oryza sativa L.）の根における通気組織形成時の、低酸素が引き起こした

非アポトーシス性の細胞変化

　湿地性植物の多くでは、浸水した環境における低酸素濃度のストレスを軽減するため、連続したガススペースである通気組織を根の皮層などに形成する。これは通気組織が空気中の植物部分から根または根茎への酸素輸送の経路となるためである。イネの通気組織は、根における皮層細胞の自己破壊によって形成されるが、それは遺伝学的にコントロールされたプログラム細胞死（PCD）である。PCDは、植物組織の幅広い領域での重要な発生メカニズムとして認識されている。動物細胞のPCDにおける細胞死の過程（クロマチン凝集、核膜の崩壊、核濃縮、食胞による貪食、原形質膜の鋸歯状化と突起形成、アポトーシス小体の形成など）は、ほとんどの場合アポトーシスである。それに対するネクローシスは、遺伝的に支配を受けず、この細胞死の過程はミトコンドリアや小胞体の破壊によって開始されることが特徴である。トウモロコシの通気組織形成においても、アポトーシスと似た細胞死過程のPCDが観察されているが、細胞レベルでのアポトーシス的特徴の中には報告されていないものもある。通気組織形成の詳細なメカニズムを理解するために、本研究ではイネの根における通気組織形成時のPCDにより生じる細胞の変化を微細構造レベルで特徴づけることを目的とした。

　実験に使用したイネ（Oryza sativa L.）は、冠水条件または好気性条件で育て、走査型電子顕微鏡（SEM）と透過型電子顕微鏡（TEM）を用いて観察した。SEMによる観察では、根端から20 mm周辺の位置で皮層細胞が崩壊し始め、基部に向かって徐々に通気組織が発達することが示された。また、通気組織発達は冠水条件よりも好気性条件において少なかった。TEMによる観察では、クロマチンの凝集、核膜の崩壊、核の断片化、核と液胞の混合、液胞膜の崩壊、細胞小器官の膨化とゆがみ、原形質膜の鋸歯状化、細胞質コンテンツの消失が観察された。また、ミトコンドリアと小胞体は液胞膜が崩壊した段階においても観察された。

　本研究で観察された細胞死の過程における構造変化は、ネクローシスとは違い、アポトーシスにおける細胞死と類似していた。しかし、アポトーシスの他の特徴である核濃縮、原形質膜の突起形成、アポトーシス小体の形成が観察されなかった。これよりイネの根における通気組織形成は非アポトーシス性のPCDによるものであるという可能性も示唆された。通気組織形成はPCDによるが、そのメカニズムには植物種間で明確な違いがあると考えられ、今後は、より多くの湿地性植物種における通気組織発達の研究が必要である。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。

松澤　勇介