2012年度　第2回　細胞生物学セミナー

日時：6月5日(火) 16:00~

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Differential sensitivity of rice cultivars to salinity and its relation to ion accumulation and root tip structure

Ferdose, J., Kawasaki, M., Taniguchi, M., Miyake, H.

Plant Prod. Sci. 12: 453―461

イネ栽培品種の塩分ストレスに対する感受性の差異とそれのイオン蓄積と根端構造の関係

イネの塩分耐性には,Na-＋.を根から排除すること、またイネは実生の若い段階で塩分感受性が高いことがわかっている。しかし根が,Na-＋.を排除するしくみについてはよくわかっていない。そこで今回著者らは、本研究においてイネの塩分耐性メカニズムを明らかにするため、塩分耐性が異なる4つのイネの栽培品種（塩分感受性ジャポニカ米Nipponbare、塩分感受性インディカ米IR24、塩分耐性インディカ米BokraとPokkali）の異なる二つの成長段階において、塩分ストレス下での成長抑制、イオン蓄積および根の構造の関係を調べた。著者らは、まず水耕法により、NaClが成長与える影響を調べた。その結果、すべての栽培品種において、NaCl存在下における成長の対照区に対する割合は、根およびシュートいずれにおいてもNaClの濃度の増加とともに減少し、塩分感受性の強さはIR24＞Nipponbare＞Nona Bokra＞Pokkaliであった。また塩分ストレス下における成長は、発達実生段階より早期実生段階における方が塩分濃度が強いほど減少する傾向が見られた。

次に乾燥重量中における,Na-＋.と,K-＋.の含有量の測定を行った。その結果、栽培品種や成長段階に関係なく成長と,Na-＋.もしくは,K-＋.含有量の間に負の相関がみられた。また、根もしくはシュートの成長と,Na-＋./,K-＋.含有比率の間にも負の相関がみられた。

次に著者らは25もしくは50 mM NaClで処理した実生の根端を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、早期実生段階においてIR24とPokkaliの根冠細胞はNaClの濃度が増えるとともに基底部まで大きく広がった。また、早期実生段階と発達実生段階で根冠の長さにNaClが与える影響を調べたところ25 mM NaCl存在下において、全ての栽培品種の根冠の長さは対照区と比べ増加した。50 mM NaCl存在下では塩分感受性栽培品種であるIR24とNipponbareの根冠細胞が剥離した。その結果として根冠の長さは減少した。塩分培地での根冠の長さは塩分耐性品種より感受性品種の方が短く、この傾向は早期実生段階で顕著であった。したがって、根冠細胞の増殖は、根における,Na-＋.の排除機能と関係する可能性が考えられる。事実、塩分により発現誘導され細胞膜タンパク質をコードするOsPMP3遺伝子は細胞膜電位の調整および,Na-＋.取り込みの制限に関与すると推測されており、塩分処理したイネの根冠細胞で発現することが知られている。

最後に、著者らはNaClで処理した実生の根の切片標本を蛍光顕微鏡下で観察した。その結果、IR24とPokkaliにおいて内皮カスパリー線は根端の基部における内皮細胞の放射壁で蛍光帯として観察された。また、カスパリー線の発達は塩分耐性品種であるPokkaliより塩分感受性品種であるIR24の方がより際立っていた。そしてカスパリー線のない根端領域の長さは、塩分感受性品種ではNaCl存在下で耐性品種よりも減少しており、カスパリー線は根端に近づくほど内皮が発達し成熟していた。別の報告では,Na-＋.の排除の効率は耐塩性品種より.塩分感受性品種のほうがより高いことが報告されており、塩分存在下では内皮カスパリー線は耐塩性栽培品種より塩分感受性栽培品種の方がより発達したことと一致する。よって、カスパリー線は品種による塩分耐性の違いに寄与するほど,Na-＋.を効率よく排除できるものではないと考えられる。加えてカスパリー線の発達は,K-＋.の吸収を妨げるかもしれず、それは塩分耐性に反対の影響を与える可能性もある。したがって、カスパリー線の発達は塩分耐性の決定要因ではないと考えられる。

興味のある方は是非ご参加ください。　　　山本 哲平