2012年度　第3回　細胞生物学セミナー

日時：6月12日(火)　17：00～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

The role of brassinosteroids in shoot gravitropism

Vandenbussche, F., Suslov, D., De Grauwe, L., Leroux, O.,

Vissenberg, K., Van Der Straeten, D.

Plant Physiology 156 : 1331-1336

シュートでの重力屈生におけるブラシノステロイドの役割

　　現在の重力屈性モデルでは、双子葉植物のシュートにおける負の重力屈性成長は、内皮細胞のアミロプラストの沈降と関係がある。横になったシュートにおいては、アミロプラストの沈降に続いて、底部側においてオーキシン濃度が増加し、胚軸や茎の屈曲が起こるというモデルが広く受け入れられている。一方、デンプンを欠損した変異体を用いた研究から、アミロプラストにおけるデンプンは重力屈性に必ずしも必須なものではないことが明らかになっている。ただし、アミロプラストのデンプン含有量が増加すると、その沈降が促進され、結果として重力応答が促進されることから、デンプンは重力屈性を促進し完全に発揮するためには不可欠な要因であると考えられている。

本研究では重力屈性に対するブラシノステロイド(BR)及びショ糖の影響を観察するため、暗条件下で播種したペトリ皿にシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を播種し、水平に置いて芽生えの成長方向を調べた。その結果、ショ糖欠乏下では外生BRは濃度依存的に重力屈性を阻害した。ショ糖存在下では外生BRの影響は抑制された。そこでデンプン蓄積がBR応答に影響するか否かを調べるため、デンプン欠乏性pgm変異体に内生BR合成を阻害するブラシナゾール(Brz)を処理した。その結果、Brz処理したpgm変異体においてはショ糖の存在の有無にかかわらず、重力屈性が回復した。内皮自体が欠損するscr変異体においても同様の結果が得られた。次に、野生型とpgm変異体の芽生えにルゴール染色を施し、外生BRおよびBrz処理が平衡石のデンプンの蓄積に影響を及ぼすか否かを調べた。その結果外生BR処理した野生型においては、ショ糖非存在下でもデンプン蓄積が見られ内皮でのデンプン蓄積の低下によって重力屈性反応が低下したわけではないことが明らかとなった。また、Brz処理したpgm変異体においてデンプン蓄積はみられず、Brz処理による重力屈性の回復はデンプンが蓄積したためではないことがわかった。ただしショ糖存在下ではBR処理された野生型においては、内皮以外の部分においても異所的なデンプン蓄積が見られ、BRは糖代謝にも影響することが明らかに示唆された。また、BRは、細胞壁に関する遺伝子に発現にも影響することを示す先行研究がある。そこで、暗条件下で4～5日間生育させた野生型およびpgm変異体の胚軸を凍結融解し一定の負荷を与え、細胞壁の伸展性(creep rate)を測定し、BRが細胞壁の伸展性を変化させるか否かを調べた。その結果、野生型の胚軸においては、ショ糖非存在下ではBRは細胞壁の伸展性を高め、その効果はショ糖存在下では消えた。pgm変異体はすべての負荷において野生型より細胞壁の伸展性が高かった。これらのことから、糖代謝の欠損または低下がpgm変異体およびBR処理した芽生えで起こっており、それにより重力反応の低下が起こったことが示唆された。また、植物体に支えを施した状況下ではBR処理した芽生え、pgm変異体はともに支えにもたれて伸長した。これらのことからも、BRは重力感知を妨害したのではなく、細胞壁の剛性に影響をきたした可能性が強く示唆される。またpgm変異体の細胞壁は野生型に比べ弱く、デンプン欠損変異による原因だけでなく、胚軸が自重を支えられなくなることも重力感知の低下の原因であると結論づけられた。BR処理した植物体における異所的なデンプンの蓄積は、糖代謝の変化を示唆しており、このことは細胞壁の構造以外に浸透圧調整にとっても重要であると考えられ、これらの両者ともに膨圧に影響すると考えられる。胚軸などのほとんど一次細胞壁からなる器官においては、膨圧はその器官の機械的な強さを規定し自重を支えるために重要である。さらなる研究では、BR処理した植物体の重力応答の欠陥における、デンプンの蓄積と、細胞壁の構造と、浸透圧調整のそれぞれの変化が寄与する度合いについて明らかにする必要がある。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。　　　筋師洵也